株式会社トリケミカル研究所(4369)
この記事の要点
- 半導体の成膜・エッチングに使う高純度化学材料の専業メーカーで、営業利益率は2022年1月期以降25%前後で推移しています(実績)。メモリー不況だった2024年1月期も17.3%を確保し、営業利益の減少は前期比−44.4%にとどまりました。
- 会社は2027年1月期の予想を上方修正し、売上高29,500百万円(前期比+23.5%)、営業利益7,450百万円を見込んでいます(会社予想)。一方、2029年1月期までに約122億円の設備投資を計画しており、投下資本の増加が利益に先行しています。
- 売上の34.0%が中国向け、45.5%がHigh-k材料と集中があり、経常利益の18.0%を持分法投資利益(主に韓国の合弁会社)が占めます。本業の営業利益と分けて見る必要があります。
テーマ「半導体サプライチェーンの隠れた優良企業」の中心企業です。
この記事の財務数値は、すべて連結・日本基準です。決算期は1月で、「FY2026」は2026年1月期(2025年2月〜2026年1月)を指します。金額は決算短信の百万円表示(百万円未満切り捨て)に従います。文中では 実績(開示された過去の数値)、会社予想・会社計画(会社が公表した見通し)、独自計算・独自推計(本記事が開示数値から計算した値)を区別して書きます。分析日(2026年10月17日)時点の最新の実績は、2027年1月期の中間期(2026年2月〜7月)です。
要点の詳細
- 事業の質: 半導体の成膜(CVD・ALD)やエッチングに使う高純度化学材料の専業メーカーです。営業利益率は、メモリー不況だったFY2024の17.3%を除き、FY2022以降25%前後で推移しています(実績)。自己資本比率は77.9%(2026年7月末、実績)です。
- 成長余地: 売上高はFY2022の11,574百万円からFY2026の23,883百万円へ、年率約20%で伸びました(独自計算)。2026年8月に会社はFY2027の予想を上方修正し、売上高29,500百万円(前期比+23.5%)、営業利益7,450百万円(同+26.2%)としています(会社予想)。
- 市場評価: 株価3,195円(2026年10月16日終値)は、会社予想EPSに対してPER約15.8倍、2026年7月末の純資産に対してPBR約2.71倍にあたります(独自計算)。
- リスク: 売上の約8割は海外向けで、中国が34.0%、台湾が33.7%を占めます(FY2026、実績)。上位3社への販売が売上の47.5%を占め、主力のHigh-k(高誘電率絶縁膜)材料に依存しています。会社自身もこの依存を事業等のリスクに挙げています。さらに、2029年1月期までに約122億円の設備投資を計画しており、需要が想定を下回った場合は資本効率が下がる可能性があります。
- 確認できた事実: 営業利益率は、メモリー不況だったFY2024の17.3%を除き、FY2022以降25%前後で推移しています。2027年1月期の中間期も26.1%でした(実績、独自計算)。
- 未検証の仮説: 2029年1月期までの約122億円の投資が収益化し、ROICを大きく下げないこと。中国向け売上が規制や現地化の中でも続くこと。品目別の数量・稼働率が開示されておらず、現時点では確かめられません。
- 次の決算で確認する事項: 下期の営業利益率(会社予想24.4%)、中国向け売上(会社計画は下期5,200百万円)、持分法投資利益(下期も約6.4億円の想定)、2027年3月ごろの中期経営計画の見直し。
事業概要・ビジネスモデル
トリケミカル研究所は1978年に神奈川県相模原市で設立され、現在は山梨県上野原市に本社工場を置いています。東証プライム市場に上場しています。光ファイバー用原料の高純度化から始まり、1983年から半導体向けのエッチング材料を供給しています(有価証券報告書の沿革)。セグメントは「半導体等製造用高純度化学化合物事業」の単一セグメントです。
主な製品は次の3種類です(有価証券報告書)。
- CVD材料: ウェハ上に薄い膜を化学反応で堆積させる工程(CVD)に使う材料です。中でも、微細化で生じる電気的な問題を解くための高誘電率(High-k)材料や金属窒化膜材料を「いち早く提案し、安定供給する」ことを、会社は自社の特長に挙げています。
- ドライエッチング材料: 堆積させた膜の不要な部分を削る工程に使う材料です。臭化水素などを扱います。
- 拡散材料: ウェハに不純物を注入する工程に使う材料です。
材料の販売に加えて、化学薬品用の容器の設計・販売、新規薬品の受託合成、受託実験、分析サービスなどの付帯業務も手がけます。会社は、顧客が実際に使う条件で材料を評価する受託実験を「大きな特徴」と説明しています。
グループは次の会社で構成されます(2026年1月期の有価証券報告書)。
- 三化電子材料股份有限公司(台湾、100%子会社): 台湾での開発・製造・販売を担います。売上高は3,747百万円です(FY2026、連結会社間の内部売上高を除く)。
- SK Tri Chem Co., Ltd.(韓国、35%出資の持分法適用会社): SK Materials(現SK Inc.、65%出資)との合弁会社で、韓国で高純度化学薬品の開発・製造・販売を行います。
- 安徳拓化(安徽)電子材料有限公司(中国合肥市、33%出資の持分法適用会社): 2025年9月に、合肥安徳科銘半導体科技(67%出資)との合弁で設立しました。2026年9月の決算説明資料によると、工場は建設中で、完成は2027年前半の予定です。
- 株式会社エッチ・ビー・アール(49%出資の持分法適用会社): 日本エア・リキードとの合弁会社で、臭化水素を製造しています。
- 上海特李化学科技有限公司(非連結子会社): 中国での営業活動を担います。
決算短信は、売上高を最終顧客の製品用途別に分けて開示しています。FY2026はHigh-k材料が10,873百万円で、売上高の45.5%を占めました(独自計算)。
注: 決算短信の千円表示を百万円未満切り捨てで表示したため、合計は連結売上高(FY2025: 18,905百万円、FY2026: 23,883百万円)と1〜2百万円ずれる。区分は最終顧客の製品使用用途に基づく。
出典: 株式会社トリケミカル研究所 2026年1月期 決算短信〔日本基準〕(連結) 補足情報(顧客との契約から生じる収益を分解した情報) (2026-10-17参照)
FY2026は、前期比でMetal(金属系CVD材料)が+52.1%、Etchingが+61.3%と大きく伸び、High-kの+15.5%を上回りました(独自計算)。この結果、High-kの構成比は前期の49.8%から下がっています。2027年1月期の中間期も、High-kは7,131百万円(前年同期比+17.2%)、Metalは3,197百万円(同+36.9%)と伸びています(実績、独自計算)。
会社は、半導体向け売上の内訳をメモリー向けとロジック向けに分けた概算値も公表しています(会社推定)。2027年1月期の中間期は、メモリー向けが8,287百万円、ロジック向けが5,353百万円でした(決算説明資料)。
売上・利益・キャッシュフローの構造
実績・会社予想・会社目標を含みます(薄色・点線は実績以外)
注: 決算期は1月。FY2026は2026年1月期(2025年2月〜2026年1月)を指す。FY2022〜FY2026は有価証券報告書の連結経営指標(千円)を百万円未満切り捨てで表示。FY2027は2026年8月31日に上方修正した会社予想(修正前は27,000百万円)。
出典: 株式会社トリケミカル研究所 有価証券報告書 第48期(2026年1月期) (2026-10-17参照) / 株式会社トリケミカル研究所 2027年1月期 第2四半期(中間期)決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照)
売上高は、メモリー市況が悪化したFY2024に前期比18.5%減りましたが、FY2025に+68.1%、FY2026に+26.3%と回復し、過去最高を更新しました(実績)。会社はFY2026の増収要因として、生成AIの普及に伴う先端ロジック・メモリーの高い需要と、データセンター投資の拡大を挙げています。一方で、中国の一部顧客が生産効率化を進めて材料の需要が減ったため、FY2026の売上高は期初計画の26,000百万円を2,116百万円下回りました(有価証券報告書)。
実績・会社予想・会社目標を含みます(薄色・点線は実績以外)
注: 営業利益率は決算短信の百万円表示(百万円未満切り捨て)の営業利益÷売上高で算出し、小数第2位を四捨五入した。FY2022〜FY2026は決算短信記載の売上高営業利益率と一致する。FY2027は2026年8月31日修正後の会社予想(売上高29,500百万円、営業利益7,450百万円)から算出。
出典: 株式会社トリケミカル研究所 2023年1月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 株式会社トリケミカル研究所 2024年1月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 株式会社トリケミカル研究所 2026年1月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 株式会社トリケミカル研究所 2027年1月期 第2四半期(中間期)決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照)
営業利益率は、FY2024の17.3%を除き、FY2022以降25%前後で推移しています(実績)。FY2026は24.7%で、前期の27.8%から下がりました。会社の説明では、減価償却費の増加で製造経費が増え、売上総利益率が42.4%から37.8%に下がったためです。減価償却費は1,372百万円から1,917百万円に増えました(実績)。
2027年1月期の中間期は、売上高14,705百万円(前年同期比+18.8%)、営業利益3,838百万円(同+20.8%)で、営業利益率は26.1%でした(実績、独自計算)。会社の増減要因分析では、増収効果が+1,251百万円、為替が+228百万円、販管費の減少が+136百万円の増益要因でした。一方、製造経費の増加(−648百万円)と製造労務費の増加(−296百万円)が減益要因でした(決算説明資料)。売上総利益率は36.2%で、前年同期の38.1%から下がっています(独自計算)。新しい設備の償却負担を、増収と販管費の抑制で吸収した形です。
会社予想(修正後)のFY2027下期は、売上高14,795百万円、営業利益3,612百万円です。営業利益率は24.4%で、上期の26.1%より低い前提です(独自計算)。下期の想定為替レートは1ドル155円です(期初計画は150円)。
持分法投資利益の大きさ: この会社の利益構造で見落としやすいのは、営業利益の外にある持分法による投資利益です。主に韓国のSK Tri Chemからの利益で、FY2023には2,409百万円と、経常利益6,186百万円の38.9%を占めました。FY2026は1,277百万円で、経常利益7,090百万円の18.0%でした(独自計算)。このため、会社の評価を考えるときは、本体の営業利益と持分法投資利益を分けて見る必要があります。
注: 持分法による投資利益は決算短信の参考欄(百万円)から取得。主な持分法適用会社は韓国のSK Tri Chem Co., Ltd.(当社35%出資)。持分法による投資利益は営業外収益のため営業利益には含まれず、経常利益に含まれる。
出典: 株式会社トリケミカル研究所 2023年1月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 株式会社トリケミカル研究所 2024年1月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 株式会社トリケミカル研究所 2026年1月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照)
FY2027について、会社は期初(2026年3月)に、SK Tri Chemの利益が減るとして経常減益を予想していました。しかし中間期の持分法投資利益は648百万円で、前年同期の619百万円を上回りました。修正後の予想は、下期も上期並み(約6.4億円)を想定しています(決算説明資料)。
注: 有価証券報告書の連結経営指標(千円)を百万円未満切り捨てで表示(マイナスは支出)。FY2026の投資CFには有形固定資産の取得6,286百万円と関係会社株式の取得718百万円を含む。
出典: 株式会社トリケミカル研究所 有価証券報告書 第48期(2026年1月期) (2026-10-17参照)
キャッシュフロー: 営業CFは5期とも黒字です(実績)。FY2026の営業CFは3,795百万円で、親会社株主に帰属する当期純利益5,515百万円を下回りました。主な理由は、棚卸資産の増加(1,878百万円)と法人税等の支払(2,109百万円)、それに資金の流入を伴わない持分法投資利益(1,277百万円)です。投資CFは、南アルプス事業所などへの設備投資で−7,054百万円に膨らみ、FY2026のフリーCF(営業CF+投資CF)は−3,259百万円でした(独自計算)。この不足は、長期借入金(3,000百万円の借入)と手元資金で賄っています。2027年1月期の中間期は、営業CFが4,877百万円、投資CFが−2,977百万円で、フリーCFは+1,900百万円に戻りました(独自計算)。
ROIC・資本効率
自己資本利益率(ROE)は、FY2022から順に24.1%、20.5%、9.2%、16.8%、16.3%です(実績、有価証券報告書)。
本記事では、本業の資本効率を見るため、次の式で税引後ROICを計算しました(独自計算)。
- ROIC = 営業利益 ×(1 − 30%)÷ 投下資本
- 投下資本 = 純資産 + 有利子負債(借入金・リース債務)− 現金及び預金 − 投資有価証券(期末値)
- 投資有価証券を差し引くのは、その大半が持分法適用会社への投資で、そこから生まれる利益が営業利益に含まれないためです。税率30%は簡便な仮定です。
この式によると、ROICはFY2025が18.4%、FY2026が15.4%でした。FY2026は、税引後営業利益が3,679百万円から4,131百万円へ452百万円増えた一方、投下資本は20,003百万円から26,856百万円へ6,853百万円増えました。南アルプス事業所などの大型投資が先に資本を増やし、利益が後から追いつく局面にあたります。
会社は、2029年1月期までに次の設備投資を計画しています(有価証券報告書、会社計画)。
- 本社工場・上野原第二工場・Annex棟: 5,606百万円
- 南アルプス事業所: 4,528百万円(うち210百万円は支払済み)
- 台湾子会社の本社工場: 2,364百万円
残りの支払額は約12,288百万円で、FY2026の営業CFの約3年分にあたります(独自計算)。今後2〜3年のROICは、これらの設備がどれだけ稼働するかに左右されます。
競争優位と競争環境
確認できる優位性(事実・会社説明)
- 先端材料の早期提案と量産: 微細化に伴う材料の切り替えに合わせて新材料を提案し、試作から量産まで一貫して手がける体制を、会社は強みとしています。新製品の開発件数の目標は「2025年度までに10件」で、実績は2020〜2024年度で14件でした(有価証券報告書のマテリアリティ)。
- 収益性: 単一事業で営業利益率25%前後を保っています(実績)。会社は「売上高営業利益率25%程度への回復・維持」を経営目標にしています。少量・多品種・高純度の材料で価格決定力があることがうかがえます。ただし、価格や競合のシェアは開示されていません。
- 顧客との結びつき: 会社は、顧客の最先端プロセスの情報を知ったうえで材料を開発・提案すると説明しています。主要顧客への売上比率は、台湾の電子材料商社TOPCO Scientificが22.2%、日本エア・リキードが14.5%、中国のメモリーメーカーChangxin Xinqiao Memory Technologiesが10.8%です(FY2026、実績)。
- 競合: 会社は「ニッチな市場であることから、現状、競争相手となる企業は少ない」と説明しています(有価証券報告書)。ただし、同じ分野の世界的な化学・ガスメーカーとの間で、品目ごとのシェアがどうなっているかは、公開情報では確認できませんでした。
限界・注意点
- 世界シェアや品目別の利益率は開示されていません。本記事では、競争優位を「推定」の段階にとどめます。
- 主要原料のうち、有機リチウム化合物の約8割をアジアリチウム1社から、特殊仕様の容器を主に下山工業から仕入れています(有価証券報告書)。供給面でも集中があります。
成長ドライバーと市場規模
注: 売上高は最終顧客の所在地を基礎として国・地域に分類(会社開示)。決算短信の千円表示を百万円未満切り捨てで表示したため、合計は連結売上高と数百万円以内でずれる。
出典: 株式会社トリケミカル研究所 2026年1月期 決算短信〔日本基準〕(連結) 関連情報(地域ごとの情報) (2026-10-17参照)
地域別の動き(実績): FY2026は、台湾向けが8,060百万円(前期比+34.4%)、中国向けが8,116百万円(同+15.9%)、韓国向けが2,206百万円(同+43.1%)でした(独自計算)。2027年1月期の中間期は、中国向けが5,840百万円(前年同期比+25.5%)、台湾向けが4,950百万円(同+36.9%)と伸びました。一方、日本向け(2,205百万円、同−0.5%)と韓国向け(1,276百万円、同−2.1%)は前年同期をわずかに下回りました(実績、独自計算)。会社は修正計画で、下期の中国向けを5,200百万円と上期より少なく見込みつつ、期初計画よりは強いと説明しています(決算説明資料、会社予想)。
成長ドライバー(会社説明)
- 生成AI向けデータセンター投資の継続と、AI機能を搭載した端末の増加による半導体需要の拡大
- 先端ロジック・メモリーの微細化・積層化に伴う、新しい成膜・エッチング材料の採用
- 中国の半導体メーカーの現地調達ニーズに応えるため、合肥の合弁会社が2027年前半に工場を完成させる予定
- 南アルプス事業所での新規エッチング材料などの量産体制の構築
中期経営計画(会社計画): 3年ごとに見直すローリング方式で、最終年度の2029年1月期に売上高31,700百万円、営業利益8,650百万円を目標にしています(有価証券報告書)。この計画は、FY2027の期初予想(売上高27,000百万円)を前提に作られました。FY2027の修正予想(29,500百万円)と比べると、残り2年間の増収率は2年間の累計で+7.5%(年率では約3.7%)にとどまります(独自計算)。2027年3月ごろの計画見直しで目標が引き上げられるかどうかが、注目点です。
半導体材料の市場規模や、同社が扱う品目の市場シェアについて、一次情報で確認できる数値は見つかりませんでした。そのため本記事では記載しません。
経営者・資本政策
代表取締役社長執行役員は太附聖氏です。筆頭株主は個人の竹中潤平氏(12.81%)で、日本マスタートラスト信託銀行(信託口、12.48%)、日本カストディ銀行(信託口、10.90%)、山梨中央銀行(4.30%)が続きます(2026年1月末、有価証券報告書)。
- 配当: 1株当たり配当は、FY2022から順に20円、30円、30円、35円、35円です(実績)。FY2027の予想も35円です(会社予想)。会社予想EPS(202.17円)に対する配当性向は17.3%です(独自計算)。会社は、内部留保を将来の設備投資に回しつつ、安定配当を続ける方針です。
- 自社株買い・増資: FY2026に、単元未満株の買取り以外の自社株買いはありません。直近のエクイティ・ファイナンスは、2021年2月の公募増資(125万株)です(有価証券報告書)。
- 財務: 2025年9月に、5,000百万円のタームローン契約(期末残高3,000百万円)と、極度額5,000百万円のリボルビング・クレジット・ファシリティ契約を結びました。純資産の維持や、経常損益が2期連続で赤字にならないことなどの財務制限条項がついています(有価証券報告書)。2026年7月末の借入金は5,782百万円、現金及び預金は10,078百万円で、差し引き約4,296百万円の実質手元資金があります(独自計算、リース債務を除く)。
将来シナリオ(条件付き)
以下は将来を予測するものではありません。どのような条件のもとで何が起こりうるかを整理したものです。
- 会社計画を上回るシナリオ: AI向けの先端ロジック・HBM(高帯域メモリー)の投資が2027〜2028年も続き、南アルプス事業所と台湾子会社の増強が順調に立ち上がった場合を考えます。この場合、売上高は中期経営計画の31,700百万円を前倒しで超え、営業利益率25%前後を保てる可能性があります。合肥の合弁会社が2027年に稼働すれば、持分法投資利益が上積みされる可能性もあります。
- 会社計画並みのシナリオ: 中国向け売上が、会社の想定どおり下期以降に落ち着き、台湾・韓国向けの伸びで補う形になった場合を考えます。この場合、FY2027の修正予想(売上高29,500百万円、営業利益7,450百万円)前後の水準となり、その後は減価償却費の増加を吸収しながら緩やかに増益する形が考えられます。
- 下振れシナリオ: メモリー市況が悪化した場合(FY2024は売上高−18.5%、営業利益−44.4%、実績)や、中国顧客への規制・材料の現地化が進んだ場合を考えます。この場合、新設備の償却負担が重なり、営業利益率が20%を下回る可能性があります。その場合、2029年1月期までの約122億円の投資がROICを押し下げる要因になります。
現在の市場評価との比較
2026年10月16日の終値3,195円をもとにした指標は次のとおりです(独自計算)。
| 指標 | 値 | 計算の前提 |
|---|---|---|
| 時価総額 | 約103,827百万円 | 期末自己株式を除く株式数32,496,708株(2026年7月末) |
| PER(会社予想) | 約15.8倍 | FY2027の会社予想EPS 202.17円 |
| PBR | 約2.71倍 | 2026年7月末の1株当たり純資産 約1,177円 |
| EV/営業利益(会社予想) | 約13.4倍 | 時価総額から実質手元資金約4,296百万円を差し引いたEV÷営業利益予想7,450百万円 |
| 配当利回り(会社予想) | 約1.10% | 年間配当35円 |
参考として、各期末時点のPER(実績EPSベース、有価証券報告書)は、FY2022から順に24.3倍、15.7倍、48.5倍、21.4倍、19.4倍でした。現在の約15.8倍は会社予想ベースのため単純には比べられませんが、過去5期の期末時点の水準と比べると、低い側にあります。
市場がどのような前提を置いているかは推定になります。考えられる解釈は2つあります。1つは、FY2027の増益(営業利益+26.2%)がピークに近く、FY2028以降は減価償却費の増加や中国売上の減少で伸びが鈍るという見方です。もう1つは、持分法投資利益の変動や、半導体市況の循環性を割り引いているという見方です。どちらがどの程度効いているかは、本記事では検証できていません。
主要リスクと反証条件
| リスク | 内容(事実・会社開示) | 反証条件(この分析の見立てが崩れる目安) |
|---|---|---|
| 半導体市況の循環 | 売上の大半が半導体向け。FY2024は売上高−18.5%、営業利益−44.4%(実績) | 2期連続で営業利益率が20%を下回る |
| 製品の集中 | High-k材料が売上の45.5%(FY2026)。会社もリスクとして開示 | High-kの売上が前期比で2期連続減少する |
| 顧客・地域の集中 | 上位3社で47.5%、中国34.0%・台湾33.7%(FY2026) | 中国向け売上が通期で前期比20%以上減る |
| 地政学・輸出規制 | 中国規制により、光ファイバー向けの一部原料が調達できなくなった(2026年9月の決算説明資料) | 主要原料や主要顧客への出荷に規制が及ぶ |
| 大型投資 | 2029年1月期までに約122億円の投資計画。FY2026はフリーCFがマイナス | 投下資本が増え続ける中で、ROIC(独自計算)が2期連続で12%を下回る |
| 持分法投資利益の変動 | SK Tri Chemなどの利益は経常利益の18.0%(FY2026) | 持分法投資利益が前期比で半減する |
| 生産拠点の集中 | 本社工場と上野原第二工場が同じ工業団地にあり、災害時に同時被災の恐れ(有価証券報告書) | ― |
| 仕入先の集中 | 有機リチウム化合物の約8割をアジアリチウムから調達(有価証券報告書) | ― |
出典
- 株式会社トリケミカル研究所 2027年1月期 第2四半期(中間期)決算短信〔日本基準〕(連結)(2026-10-17参照)
- 株式会社トリケミカル研究所 第49期(2027年1月期)第2四半期決算説明資料(2026-10-17参照)
- 株式会社トリケミカル研究所 有価証券報告書 第48期(2026年1月期)(2026-10-17参照)
- 株式会社トリケミカル研究所 2026年1月期 決算短信〔日本基準〕(連結)(2026-10-17参照)
- 株式会社トリケミカル研究所 2024年1月期 決算短信〔日本基準〕(連結)(2026-10-17参照)
- 株式会社トリケミカル研究所 2023年1月期 決算短信〔日本基準〕(連結)(2026-10-17参照)
- 株式会社トリケミカル研究所 IRライブラリー(2026-10-17参照)
- 松井証券 トリケミカル研究所(4369) 株価ページ(2026年10月16日終値)(2026-10-17参照)