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株式会社eWeLL(5038)

決算期: 12月 / 会計基準: 日本基準 / 分析日: 2026-10-17 / データ基準日: 2026-08-14

この記事の要点

テーマ「医療・介護の現場DXを担うSaaS企業」の中心企業です。

この記事の財務数値は、すべて単体(非連結)・日本基準です。決算期は12月で、「FY2025」は2025年12月期を指します。金額は決算短信の百万円表示(百万円未満切り捨て)に従います。文中では 実績(開示された過去の数値)、会社予想・会社計画(会社が公表した見通し)、独自推計(本記事が開示数値から計算した値)を区別して書きます。

要点の詳細

事業概要・ビジネスモデル

eWeLLは2012年に大阪で創業し、2022年9月に東証グロース市場へ上場しました。主な事業は訪問看護ステーション向けの業務支援で、会社は「訪問看護ステーション向けサービス提供事業」の単一セグメントとして開示しています。

収益は大きく2つに分かれます。

  1. クラウドサービス(FY2025売上高2,930百万円、構成比86.4%): 電子カルテ「iBow」、レセプト(保険請求)の「iBowレセプト」、勤怠管理、法定研修のe-Learning、AIによる計画書・報告書の作成支援などです。
  2. BPaaS(同440百万円、構成比13.0%): 「iBow事務管理代行サービス」です。レセプト業務などを、自社SaaSと組み合わせて代行します。2025年12月期に「BPO」から名称を変えましたが、サービスの内容は変わっていません。

課金は従量制が中心です。会社の説明資料によると、iBowは基本料金が月18,000円で、これに訪問1件ごとに100円が加わります。オプションのAI訪問看護計画・報告は1訪問20円、AI訪問予定・ルートは1訪問30円です。BPaaSは保険請求額の5%相当で、月額の最低料金は10万円です。顧客ステーションの訪問件数が増えると、eWeLLの売上も増える仕組みです。会社は、iBowの利用料は訪問看護の医療費(介護費)の約1.4%程度だと説明しています。

売上・利益・キャッシュフローの構造

売上高の推移(単体)単位: 百万円

実績・会社予想・会社目標を含みます(薄色・点線は実績以外)

注: FYは12月決算(例: FY2025 = 2025年12月期)。単体(非連結)・日本基準。百万円未満切り捨て。FY2026は2026年2月13日公表の会社予想で、2026年8月14日の中間期決算短信でも修正なし。

出典: 株式会社eWeLL 2022年12月期 決算短信〔日本基準〕(非連結) (2026-10-17参照) / 株式会社eWeLL 2023年12月期 決算短信〔日本基準〕(非連結) (2026-10-17参照) / 株式会社eWeLL 2025年12月期 決算短信〔日本基準〕(非連結) (2026-10-17参照) / 株式会社eWeLL 2026年12月期 第2四半期(中間期)決算短信〔日本基準〕(非連結) (2026-10-17参照)

売上高はFY2021の1,192百万円から、FY2025には3,392百万円になりました(実績)。この4年間の年平均成長率は約29.9%です(独自計算)。FY2026の会社予想は4,277百万円(前期比26.1%増)で、2026年8月14日の中間期決算短信でも修正されていません。

営業利益と営業利益率(単体)単位: 百万円(営業利益率は%)

実績・会社予想・会社目標を含みます(薄色・点線は実績以外)

注: 営業利益率は、決算短信の百万円表示(百万円未満切り捨て)の営業利益÷売上高で算出し、小数第2位を四捨五入した。会社の開示は千円単位で計算しているため、FY2021(会社開示33.7%)とFY2024(同44.2%)は0.1pt異なる。FY2026は会社予想。

出典: 株式会社eWeLL 2022年12月期 決算短信〔日本基準〕(非連結) (2026-10-17参照) / 株式会社eWeLL 2023年12月期 決算短信〔日本基準〕(非連結) (2026-10-17参照) / 株式会社eWeLL 2025年12月期 決算短信〔日本基準〕(非連結) (2026-10-17参照) / 株式会社eWeLL 2026年12月期 第2四半期(中間期)決算短信〔日本基準〕(非連結) (2026-10-17参照)

営業利益は、FY2021の401百万円からFY2025の1,537百万円まで伸びました(実績)。営業利益率は、FY2022に43.2%へ上がった後、43.9%(FY2023)、44.1%(FY2024)、45.3%(FY2025)と少しずつ上昇しています。グラフの営業利益率は、百万円表示の営業利益を売上高で割った値です。会社は千円単位で計算しているため、FY2021(会社開示33.7%)とFY2024(同44.2%)では0.1ptの差があります。FY2026の会社予想は営業利益1,927百万円、営業利益率45.1%です。

FY2025のコスト構造は次のとおりです(決算説明資料、実績)。

項目(FY2025)金額(百万円)売上高比
売上原価73721.7%
売上総利益2,65478.3%
販売費及び一般管理費1,11732.9%
営業利益1,53745.3%

サービス別の売上総利益率は、クラウドが80.2%、BPaaSが64.4%でした(実績)。BPaaSは人手を使うため、クラウドより利益率が低くなります。それでも、FY2024の56.0%からは8.4pt改善しました。なお、FY2026の会社予想では売上総利益率が75.6%(前期比2.6pt低下)に下がります。外注費が前期比57.7%増える計画で、AIサービスやレセプトの法改正対応の開発費を見込んでいるためです。

営業キャッシュ・フローと当期純利益(単体)単位: 百万円

注: 単体(非連結)。百万円未満切り捨て。各期の値は、その期と翌期の決算短信のサマリー情報から取得した。

出典: 株式会社eWeLL 2022年12月期 決算短信〔日本基準〕(非連結) (2026-10-17参照) / 株式会社eWeLL 2023年12月期 決算短信〔日本基準〕(非連結) (2026-10-17参照) / 株式会社eWeLL 2025年12月期 決算短信〔日本基準〕(非連結) (2026-10-17参照)

営業キャッシュ・フローは5期続けて当期純利益を上回っています(実績)。FY2025は営業CF 1,270百万円、当期純利益1,088百万円でした。投資CFは△210百万円です。営業CFと投資CFを足した簡易的なフリーCFは、約1,060百万円になります(独自計算)。ソフトウェア投資やオフィスの敷金はありますが、設備投資の負担は小さい事業です。

2026年12月期 中間期(実績): 売上高1,991百万円(前年同期比24.2%増)、営業利益946百万円(同20.1%増)、営業利益率47.5%でした。会社予想(中間期)と比べると、売上高は2.0%下回り、営業利益は3.8%上回りました(会社資料では35百万円の上振れ)。通期予想に対する進捗率は、売上高46.6%、営業利益49.1%です(会社資料)。

ROIC・資本効率

会社が開示するROE(自己資本当期純利益率)は37.6%(FY2025)でした。会社は、自社の株主資本コストを10.6〜12.0%と推計しています。有利子負債は0で、総資産の約65%が現預金です(2026年6月末の現預金2,811百万円、総資産4,345百万円)。

ROIC(独自推計): 会社はROICを開示していません。そこで、次の前提で概算しました。

この前提だと、ROICは200%を超えます。投下資本が非常に小さいため、数値そのものより「事業を回すのに資本がほとんど要らない」ことを示す指標として読むのが適切です。現預金を含めた純資産全体で割ると約32%です。資本効率を押し下げているのは事業ではなく、積み上がった手元資金です。会社はFY2026〜FY2028の資本配分を次のように示しています。

項目(3年間)金額
営業CF(想定)50億円
成長投資5〜10億円
株主還元10〜15億円
内部留保25〜30億円

あわせて、純資産50億円以上を目標にしています(中期経営計画説明資料)。

競争優位と競争環境

会社の開示から確認できる強みは、次の3つです。

  1. 業種特化と網羅性: iBowは訪問看護の現場業務(記録・計画書・報告書・指示書管理など)を起点に設計されています。看護記録からレセプト計算まで自動でつながる点を、会社はレセプト主体の他社システムとの違いとして説明しています。
  2. 低い解約率: 月次のレベニューチャーンレート(解約で減った月額利用料の割合)は0.07%(FY2022)、0.11%(FY2023)、0.19%(FY2024)、0.17%(FY2025)でした(実績、通期)。2026年6月時点のクラウドNRR(既存法人1社あたり売上の前年同月比)は108.0%で、会社はこの指標を2026年第2四半期から開示し始めました。
  3. データの蓄積とアップセル: 会社は、年間約2,000万件超の訪問データが蓄積されていると説明しています。これをAI機能に活用しています。アップセル・クロスセルによる売上の比率は、19%(2023年)、23%(2024年)、30%(2025年)と上がっています(会社資料)。

競争環境について確認できないこと: 訪問看護向けの電子カルテ・レセプト市場での競合各社のシェアは、今回確認した公開資料からは読み取れませんでした。会社資料では、競合は「介護レセプトベンダー」「大手医療ベンダー」「訪問看護用記録システムベンダー」などの類型で示されるだけで、個社名は出ていません。会社の開示によると、他社システムへの切り替えによる解約は、FY2025に四半期あたり15〜34件ありました(実績)。一方、2026年第2四半期の資料では、診療報酬改定をきっかけに、他社から切り替えてくる契約が増えたと説明されています。

成長ドライバーと市場規模

契約ステーション数(期末)と月間平均顧客単価(第4四半期)単位: 件(顧客単価は千円)

実績・会社予想・会社目標を含みます(薄色・点線は実績以外)

注: 顧客単価は会社定義(四半期の平均月間リカーリング売上高÷月末平均稼働ステーション数)。FY2023以前は会社が算定方法を遡って修正した後の値。FY2026は会社の通期業績予想ではなく、中期経営計画(2026年2月13日公表)のKPI計画値(会社目標)。参考として、2026年6月末の契約ステーション数は3,736件、2026年第2四半期の顧客単価は90.9千円(第2四半期決算資料)。

出典: 株式会社eWeLL 2025年12月期決算及び中期経営計画説明資料(KPI推移・3カ年中期経営計画KPI目標) (2026-10-17参照)

売上の伸びは「契約ステーション数 × 顧客単価」に分けて見られます。

新サービス(会社計画): 「AI訪問予定・ルート」は、当初予定の2026年1月から延期され、2026年7月に課金を始めました。課金開始は246件、契約の累計は273件です。会社は単価を1ステーションあたり月15,000円程度と想定しています。このほか、経営分析の「iBowボード」(2026年2月リリース)、求職者マッチングの「カエドキ」(2026年春頃の予定)、「AI訪問看護スコアリング(仮)」(2026年中に課金開始の予定)が控えています。

経営者・資本政策

代表取締役社長の中野剛人氏は、2012年の設立時から社長を務める創業者です。従業員は118名(2026年6月末)で、少人数の体制です。会社は2026年末に151名とする計画ですが、2026年第2四半期は9名が入社し、9名が退職したため人数は横ばいでした。

株主還元の方針は配当性向20%が目安です。1株配当は、FY2025に16円(配当性向22.3%)で、FY2026は21円を予定しています(会社予想、配当性向24.1%)。

資本政策で注目すべき経緯: 2026年2月13日の決算・中計説明資料には、「自己株買いなどは検討しておらず、配当にて還元の方針」と書かれていました。ところが4日後の2月17日、取締役会は上限172,000株・300百万円の自己株式取得を決議しました。同日の補足説明では、理由を「株価に当社の成長性が十分に織り込まれていないと判断」したためとし、取得した株式を報酬制度や将来の業務提携にも使えると説明しています。実際の取得は140,700株、299,912千円でした(中間期決算短信)。短い期間で方針が変わったこと自体は事実として記録しておきます。それをどう評価するかは、今後の資本配分の一貫性を見て判断する必要があります。

将来シナリオ(条件付き)

以下は予測ではなく、条件ごとの整理です。

FY2026下期に必要な水準(独自計算): 通期の会社予想から中間期実績を引くと、下期に売上高2,286百万円、営業利益981百万円が必要です。FY2025下期(売上高1,789百万円、営業利益749百万円)と比べると、売上高+27.8%、営業利益+31.0%にあたります。上期の増収率は24.2%だったので、下期は伸びの加速が前提になっています。会社は、7月に課金が始まったAI予定ルートの寄与を見込んでいます。

現在の市場評価との比較

2026年10月16日終値の2,325円をもとにした独自計算は次のとおりです。

指標値計算の前提
時価総額約352億円発行済株式数から自己株式を除いた15,130,860株(2026年6月末)
PER約26.7倍会社予想EPS 87.18円
PBR約9.9倍2026年6月末の1株純資産約233.8円
EV約324億円時価総額 − 現預金2,811百万円(有利子負債0)
EV/営業利益約16.8倍FY2026会社予想の営業利益1,927百万円
配当利回り約0.9%予想配当21円

会社は決算説明資料の中で、売上高成長率とPERの相関を示しています。そのうえで、高い利益率を加味すれば、より高いPERに位置づけられるとの見方を示しました。これは会社自身の見解です。

参考として、中計どおりFY2028に営業利益2,784百万円が実現した場合、現在の時価総額はその約12.6倍にあたります(独自計算。2,785百万円で計算しても約12.6倍で変わりません)。逆に、成長率が中計を下回る状況が続いた場合は、現在の評価が前提とする成長が実現しないことになります。株価に組み込まれている期待の水準は、下期の増収の加速とAIサービスの付帯率を見ることで検証できます。

主要リスクと反証条件

リスク内容反証条件(この仮説が崩れたと判断する目安)
成長の減速上期の売上高が会社予想を2.0%下回った。増収率は31.9%(FY2025)から24.2%(2026年上期)へ低下FY2026の売上高が会社予想4,277百万円を下回る。または2四半期連続で増収率が20%を下回る
解約率の上昇2026年第1四半期0.19%、第2四半期0.20%で、中計目標0.15%(2026年)より高い水準。ただし中計目標は年間の加重平均(会社定義)で、四半期の値とは算定方法が異なる。会社は小規模先の閉鎖による解約が多いと説明通期のレベニューチャーンレートが2期連続で0.2%を上回る
利益率の低下FY2026は外注費が前期比57.7%増の計画で、売上総利益率は75.6%に下がる見込み(会社予想)営業利益率が2期連続で40%を下回る
AI新サービスの収益化AI予定ルートは課金開始を半年延期。スコアリングは未リリースAI関連の付帯率や顧客単価の上昇が中計KPI(2026年第4四半期98.9千円)を大きく下回る
制度依存顧客の収入は診療報酬・介護報酬に依存。2026年度改定では「包括型訪問看護療養費」など、影響が未確定の項目がある改定後に契約ステーションの純増ペースが四半期100件を継続的に下回る
人材・組織少人数の体制で、2026年第2四半期は入社9名・退職9名2026年末の従業員数が計画151名を大きく下回り、開発・BPaaSの供給制約が表面化する
AIによる代替汎用AIで記録ソフトが容易に作られるという懸念。会社は、従量課金と国家資格者の医療データを根拠に代替されにくいと説明他社切り替えによる解約が増加傾向に転じる

出典