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日本電子材料株式会社(6855)

決算期: 03月 / 会計基準: 日本基準 / 分析日: 2026-10-17 / データ基準日: 2026-09-30

この記事の要点

テーマ「半導体サプライチェーンの隠れた優良企業」の中心企業です。

この記事の財務数値は、特に断りがない限り連結・日本基準です。決算期は3月で、「FY2026」は2026年3月期(2025年4月〜2026年3月)を指します。会社資料の「2025年度」は、本記事のFY2026にあたります。金額は決算短信の百万円表示(百万円未満切り捨て)に従います。文中では 実績(開示された過去の数値)、会社予想・会社計画(会社が公表した見通し)、独自計算・独自推計(本記事が開示数値から計算した値)を区別して書きます。分析日(2026年10月17日)時点の最新の実績は、2027年3月期の第1四半期(2026年4〜6月)です。

要点の詳細

事業概要・ビジネスモデル

日本電子材料は1960年に兵庫県尼崎市で設立され、ブラウン管用の電子管部品から事業を始めました。1970年に米国のRucker & Kolls社と技術提携し、プローブカードの製造販売に参入しています(有価証券報告書の沿革)。東証スタンダード市場に上場しています。

プローブカードとは: 半導体の前工程が終わったウェハ上のチップを、切り分ける前に電気的に検査する工程(ウェハテスト)で使う部品です。無数の微細な針(プローブ)をチップの電極に当てて信号をやり取りします。プローブカードは半導体の回路ごとに設計・製造される「消耗品」の性格を持ちます(有価証券報告書の事業等のリスク)。顧客が新しい製品を作るたびに新しいカードが必要になる一方、顧客の生産量や設備投資に需要が左右されます。

セグメントは2つです(FY2026、実績)。

プローブカードは構造で3タイプに分かれます(有価証券報告書)。

  1. Cタイプ(カンチレバー型): 針が片持ち梁の構造を持つ従来型です。
  2. Vタイプ(垂直型): 針が垂直に立つタイプで、ロジックやイメージセンサーなどの高集積・高速の品種に使われます。
  3. Mタイプ(MEMS型): 半導体の製造技術を応用した微細加工(MEMS)で作るプローブを使うタイプです。2008年に製造販売を始めました。会社は、メモリー分野で培った「300mm一括コンタクト技術」と「高温プロービング技術」を強みに挙げています(中期経営計画の進捗資料)。

決算説明資料によると、プローブカード売上に占めるMタイプの比率は、FY2026の各四半期で77〜83%、FY2027第1四半期で83%でした(会社開示)。売上の大半が、メモリー向けのMタイプに集中しています。

Mタイプの生産は工場ごとに分業しています。本社工場(尼崎市)がプローブを、三田工場(兵庫県三田市)がST基板(スペーストランスフォーマー、配線基板)を作り、熊本事業所(熊本県菊池市)で組み立てます。熊本事業所には2024年10月に第4工場が完成しました(決算説明資料)。海外には、台湾・上海・米国に製造販売拠点があり、タイ・香港・深センの子会社は部品の仕入先です(有価証券報告書の関係会社の状況)。

売上・利益・キャッシュフローの構造

売上高の推移(連結)単位: 百万円

実績・会社予想・会社目標を含みます(薄色・点線は実績以外)

注: 決算期は3月。FY2026は2026年3月期(2025年4月〜2026年3月)を指す。会社資料の「2025年度」は本グラフのFY2026にあたる。FY2027は2026年8月7日修正後の会社予想(修正前は33,000百万円)。百万円未満切り捨て。

出典: 日本電子材料株式会社 2023年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 日本電子材料株式会社 2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 日本電子材料株式会社 2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 日本電子材料株式会社 2027年3月期第2四半期連結累計期間及び通期連結業績予想並びに剰余金の配当(中間配当)予想の修正に関するお知らせ(2026年8月7日) (2026-10-17参照)

売上高は、FY2022の23,599百万円から2期連続で減り、FY2024に17,461百万円まで落ち込みました(実績)。メモリー市況の悪化で、顧客がプローブカードの発注を絞ったためです。その後、FY2025に+36.5%、FY2026に+23.2%と回復し、過去最高を更新しました。会社は増収の要因として、データセンター向けや生成AIの画像処理半導体、広帯域メモリー(HBM)など、先端半導体の需要を挙げています。非メモリー向けは「軟調」だったと説明しています(決算短信)。

FY2026の受注高は32,775百万円(前期比+24.2%)、期末の受注残高は11,783百万円(同+40.7%)でした(有価証券報告書、全セグメント合計)。受注高が売上高を上回っており、受注高÷売上高は約1.12倍です(独自計算)。

営業利益と営業利益率(連結)単位: 百万円(営業利益率は%)

実績・会社予想・会社目標を含みます(薄色・点線は実績以外)

注: 営業利益率は営業利益÷売上高で算出し、小数第2位を四捨五入した。FY2022〜FY2026は決算短信記載の売上高営業利益率と一致する。FY2027は2026年8月7日修正後の会社予想(売上高36,400百万円、営業利益9,450百万円)から算出した独自計算値。

出典: 日本電子材料株式会社 2023年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 日本電子材料株式会社 2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 日本電子材料株式会社 2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 日本電子材料株式会社 2027年3月期第2四半期連結累計期間及び通期連結業績予想並びに剰余金の配当(中間配当)予想の修正に関するお知らせ(2026年8月7日) (2026-10-17参照)

営業利益率は市況に合わせて大きく動きます。FY2022は21.0%でしたが、FY2024には5.0%まで下がり、FY2026には24.7%まで上がりました(実績)。売上高の変化に対して利益が大きく振れるのは、工場の稼働率が利益率を左右するためです。会社も、FY2026の増益要因に「国内工場の高い稼働率」を挙げています。FY2026の売上総利益率は43.9%で、前期の39.7%から上がりました(独自計算)。研究開発費は1,681百万円で、売上高の5.7%にあたります(実績、独自計算)。

四半期ごとの売上高と経常利益(連結)単位: 百万円

注: Q1は4〜6月、Q2は7〜9月、Q3は10〜12月、Q4は1〜3月(例: FY2027 Q1は2026年4〜6月)。会社資料は「FY24/1Q」のように年度開始年で表記しており、本グラフのFY2025 Q1にあたる。各四半期の値は会社資料のグラフ数値で、合計は通期実績と1〜5百万円ずれる。会社はFY2025 Q4について「海外子会社の期ズレの影響も加わる」と注記している。四半期の営業利益は資料に掲載がないため経常利益を示した。

出典: 日本電子材料株式会社 2026年3月期通期決算説明会資料(2026年5月19日)四半期業績推移 (2026-10-17参照) / 日本電子材料株式会社 2026年度第1四半期決算補足資料(2026年8月7日) (2026-10-17参照)

直近の四半期: FY2027第1四半期(2026年4〜6月)は、売上高9,641百万円(前年同期比+77.3%)、営業利益3,094百万円(同+109.7%)でした(実績)。営業利益率は32.1%で、前年同期の27.1%を上回りました(独自計算)。会社は、メモリー向けの需要が急に増えたのに対し、先行投資で生産量を増やせたことと、円安を要因に挙げています。

ただし、内訳を見ると売上総利益率は47.3%で、前年同期の51.4%から下がっています(独自計算)。営業利益率が上がったのは、販管費が+10.9%しか増えず、売上高に占める割合が24.3%から15.2%に下がったためです(独自計算)。

会社予想の前提: 会社は2026年8月7日に、上期(2026年4〜9月)の予想を売上高19,400百万円、営業利益5,400百万円に引き上げました(会社予想)。一方、下期は「需要動向と不安定な為替相場を踏まえて」期初の想定のまま据え置き、上期の上振れ分だけを通期予想に加えています。この結果、会社予想から逆算した数値は次のとおりです(独自計算)。

FY2026下期の実績は、売上高17,044百万円、営業利益4,592百万円(営業利益率26.9%)でした(独自計算)。会社予想の下期は、前年同期より売上高が横ばいで利益が少ない前提です。第1四半期の営業利益は、通期予想の32.7%にあたります(独自計算)。

営業CF・投資CF・フリーCF(連結)単位: 百万円

実績・シナリオを含みます(薄色・点線は実績以外)。「推計」の注記は開示値そのものではなく当サイトの推計・計算による値です

注: 営業CF・投資CFは有価証券報告書の5期推移の実績値。フリーCFは営業CF+投資CFとして本記事が計算した値(独自計算)。投資CFには定期預金の預入・払戻が含まれる(FY2026は差し引き115百万円の支出)。

出典: 日本電子材料株式会社 有価証券報告書 第67期(2026年3月期) 主要な経営指標等の推移 (2026-10-17参照) / 日本電子材料株式会社 2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照)

キャッシュフロー: 営業CFは5期とも黒字です(実績)。FY2025は1,801百万円と少なく、営業利益4,585百万円を大きく下回りました。第4四半期に売上が集中し、売上債権が3,829百万円増えたためです(決算短信)。FY2026は売上債権が回収に転じ、営業CFは5,758百万円に戻りました。

投資CFは、FY2024以降の生産能力の増強で−2,202〜−3,658百万円に膨らみ、FY2025のフリーCFは−1,780百万円でした(独自計算)。FY2026のフリーCFは+2,100百万円です。会社はFY2027に7,000百万円の設備投資を計画しており、減価償却費の計画1,800百万円を大きく上回ります(会社計画)。

ROIC・資本効率

自己資本利益率(ROE)は、FY2022から順に20.4%、11.3%、2.5%、13.1%、15.0%です(実績、決算短信)。会社は「連結経常利益率10%以上、ROE10%以上」を経営指標にしています。FY2024を除けば達成しています。

本記事では、本業の資本効率を見るため、次の式で税引後ROICを計算しました(独自計算)。

この式によると、ROICはFY2025が14.8%、FY2026が20.0%でした。FY2026の投下資本は25,311百万円(純資産44,878百万円+有利子負債7,543百万円−現金及び預金27,110百万円)です。

ただし、FY2026末の現金には、2026年3月の増資で集めた資金が含まれます。会社はこの資金を尼崎工場の建設にあてると公表しており、余剰資金ではありません。現金を差し引かない場合(投下資本=純資産+有利子負債)、税引後の資本利益率はFY2025が9.5%、FY2026が9.7%です(独自計算)。尼崎工場の完成後は、増資で増えた資本が設備に置き換わります。工場の稼働後に売上と利益がどれだけ増えるかが、今後のROICを左右します。

競争優位と競争環境

確認できる事実

推定(本記事の解釈)

限界・注意点: 主な競合は、海外の大手(FormFactor、Technoprobe)と国内の日本マイクロニクスです。HBMなど先端メモリー向けのシェアの開示はなく、同社の伸びが市場全体の伸びによるものか、シェアの上昇によるものかは区別できません。

成長ドライバーと市場規模

地域別売上高(連結、四半期値の合計・独自計算)単位: 百万円

シナリオを含みます。「推計」の注記は開示値そのものではなく当サイトの推計・計算による値です

注: 会社資料に掲載された四半期ごとの地域別売上高を、本記事が4四半期分合計した値(独自計算。会社は通期の地域別売上高をこの形では開示していないため、kindはestimate_ownとした)。合計はFY2025が23,824百万円、FY2026が29,358百万円で、通期の連結売上高(23,829百万円、29,366百万円)と数百万円ずれる。地域の区分基準(顧客所在地か出荷先か)は資料に明記されていない。

出典: 日本電子材料株式会社 2026年3月期通期決算説明会資料(2026年5月19日)四半期業績推移(地域別推移) (2026-10-17参照)

地域別の動き(実績、独自計算): 会社資料の四半期の値を合計すると、FY2026は日本向けが14,290百万円(前期比+20.5%)、アジア向けが13,007百万円(同+24.2%)、北米向けが1,570百万円(同+50.7%)でした。海外の比率は51.3%です。FY2027第1四半期は、日本向けが4,558百万円、アジア向けが4,411百万円で、海外比率は53%でした(会社開示)。日本向けの売上には、広島のマイクロンメモリジャパンや、四日市・北上のフラッシュフォワード向けが含まれると考えられます(推定)。

成長ドライバー(会社説明)

市場規模(会社推計): 会社は「複数のデータを元にした当社予測」として、プローブカード市場を2020年に約2,300億円、2025年に約4,700億円と示しています。2030年は7,000億円超(従来予測は5,000億円超)と見込んでいます。この予測は米ドルを円に換算しているため、為替で変わります。

生産能力の増強(会社計画): 2026年2月、会社は兵庫県尼崎市に新工場(尼崎工場)を建てることを決めました。投資額は約125億円で、2028年8月に完成する予定です。延床面積は約8,000㎡で、熊本第4工場の約1.3倍の規模です。Mタイプ用のプローブなどの開発・生産を強化します。2024〜2026年度(本記事のFY2025〜FY2027)の設備投資の累計予定額は、当初計画の8,500百万円から14,882百万円に増えました(中期経営計画の進捗資料)。

中期経営計画(会社計画): 2024〜2026年度の中期経営計画では、最終年度(FY2027)の目標を、当初の売上高30,000百万円・経常利益5,000百万円から、売上高33,000百万円・経常利益7,300百万円に引き上げています。8月の修正後の会社予想(売上高36,400百万円、経常利益9,300百万円)は、この目標も上回っています。次の中期経営計画(FY2028以降)は、本記事の執筆時点では公表されていません。

経営者・資本政策

代表取締役社長は坂田輝久氏です。取締役会は7名(うち社外取締役3名)で、監査等委員会設置会社です(有価証券報告書)。2026年3月末の大株主は、日本マスタートラスト信託銀行(信託口、11.61%)、日本カストディ銀行(信託口、5.57%)、大久保和正氏(3.49%)、有限会社大久保興産(2.91%)の順です。大久保和正氏は2023年5月時点の代表取締役社長です(2023年3月期決算短信)。外国法人等の持株比率は27.6%です(有価証券報告書の所有者別状況、独自計算)。

将来シナリオ(条件付き)

以下は将来を予測するものではありません。どのような条件のもとで何が起こりうるかを整理したものです。

現在の市場評価との比較

2026年10月16日の終値7,140円をもとにした指標は次のとおりです(独自計算)。

指標値計算の前提
時価総額約104,583百万円期末自己株式を除く株式数14,647,476株(2026年6月末)
PER(会社予想)約15.6倍FY2027の会社予想EPS 457.42円
PBR約2.25倍2026年6月末の1株当たり純資産 約3,170円
EV/営業利益(会社予想)約9.2倍時価総額から実質手元資金17,813百万円を差し引いたEV÷営業利益予想9,450百万円
同上(尼崎工場の未払い分を控除)約10.4倍実質手元資金から尼崎工場の残りの投資額11,469百万円(総額12,500百万円−2026年3月末の既支払額1,031百万円)を差し引いて計算
配当利回り(会社予想)約1.40%年間配当100円

参考として、各期末時点のPER(実績EPSベース、有価証券報告書)は、FY2022から順に6.76倍、7.33倍、56.31倍、6.61倍、12.23倍でした。FY2024の56.31倍は、利益が一時的に落ち込んだためです。FY2022・FY2023・FY2025の6〜7倍台と比べると、現在の約15.6倍(会社予想ベース)は高い水準にあります。FY2026中の最高株価は10,270円で(有価証券報告書)、現在の株価はその約7割の水準です(独自計算)。

市場がどのような前提を置いているかは推定になります。過去の6〜7倍台は、メモリー市況の循環で利益が大きく振れることを強く割り引いた水準と考えられます。現在の水準は、AI向けメモリーの需要が以前より長く続くという見方を、一部取り込んでいる可能性があります。一方、PER15倍台という水準は、利益の伸びがいずれ鈍るという見方も含んでいると考えられます。本記事では、どちらの見方がどの程度効いているかは検証できていません。

主要リスクと反証条件

リスク内容(事実・会社開示)反証条件(この分析の見立てが崩れる目安)
メモリー市況の循環売上の大半がメモリー向けのMタイプ。FY2024は売上高−16.0%、営業利益−72.8%(実績、決算短信の公式値)四半期の営業利益率が2四半期連続で15%を下回る
顧客の集中マイクロンのグループ2社で30.9%、上位3社で44.7%(FY2026)。会社も「特定顧客への販売に関するリスク」として開示マイクロン向けの売上が前期比で20%以上減る
大型投資と増資尼崎工場に約125億円。発行済株式数は約15.9%増加尼崎工場の完成時期の延期、または投資計画の縮小・減損が開示される
価格の下落顧客から継続した価格要請がある(有価証券報告書)売上総利益率が前年同期比で2四半期連続で5ポイント以上下がる
自然災害タイ子会社(部品の仕入先)が2026年9月の洪水で稼働停止。熊本では2025年11月と2026年7月に地震(2026年7月の地震の影響は「限定的」と会社判断)タイ子会社の停止による出荷遅れや損失が、第2四半期以降の業績に表れる
為替海外売上が約5割。第1四半期の増収要因に円安を挙げている円高で海外売上の円換算額が減り、会社予想を下回る
競争上位にFormFactor、Technoprobe、日本マイクロニクス主要顧客の新世代メモリー向けで、競合に置き換えられたことが判明する
調達先一部の装置・部材に代替が難しい取引先がある(有価証券報告書)―

出典