日本電子材料株式会社(6855)
この記事の要点
- ウェハテスト用プローブカードの専業メーカーで、メモリー向けのMEMS型が主力です。2026年3月期の営業利益率は24.7%でしたが、メモリー不況だった2024年3月期には5.0%まで下がっており(実績)、利益の振れ幅が大きい会社です。
- 2027年3月期第1四半期は売上高+77.3%、営業利益率32.1%と好調で、会社は通期予想を引き上げました。ただし下期は期初の想定のまま据え置かれ、会社予想の下期の営業利益率は23.8%です(会社予想、独自計算)。
- 2026年3月の公募増資(発行済株式数は約15.9%増加)で尼崎工場(約125億円)の資金を確保しました。米マイクロンのグループ2社で売上の30.9%を占める顧客集中もあります。
テーマ「半導体サプライチェーンの隠れた優良企業」の中心企業です。
この記事の財務数値は、特に断りがない限り連結・日本基準です。決算期は3月で、「FY2026」は2026年3月期(2025年4月〜2026年3月)を指します。会社資料の「2025年度」は、本記事のFY2026にあたります。金額は決算短信の百万円表示(百万円未満切り捨て)に従います。文中では 実績(開示された過去の数値)、会社予想・会社計画(会社が公表した見通し)、独自計算・独自推計(本記事が開示数値から計算した値)を区別して書きます。分析日(2026年10月17日)時点の最新の実績は、2027年3月期の第1四半期(2026年4〜6月)です。
要点の詳細
- 事業の質: 半導体のウェハテストに使うプローブカードの専業メーカーです。主力はMEMS技術を使った「Mタイプ」で、メモリー向けが中心です。営業利益率は、メモリー不況だったFY2024に5.0%まで下がりましたが、FY2026には24.7%に回復しました(実績)。利益率が市況に連動して大きく変わる点は、この会社の特徴です。
- 成長余地: 売上高はFY2024の17,461百万円からFY2026の29,366百万円へ増えました(実績)。2026年8月に会社は予想を上方修正し、FY2027の売上高を36,400百万円(前期比+24.0%)、営業利益を9,450百万円(同+30.4%)としています(会社予想)。会社は、プローブカードの世界市場が2025年の約4,700億円から2030年に7,000億円超へ広がると予測しています(会社推計)。
- 市場評価: 株価7,140円(2026年10月16日終値)は、会社予想EPSに対してPER約15.6倍、2026年6月末の純資産に対してPBR約2.25倍にあたります(独自計算)。同社の決算期末時点のPERは、FY2022〜FY2025に6.6〜7.3倍の年が多く(FY2024の56.3倍を除く)、FY2026末は12.2倍でした(有価証券報告書)。市場の評価の前提は、この1年で大きく変わっています。
- リスク: 米Micron Technologyのグループ2社への販売が売上の30.9%を占め、上位3社では44.7%に達します(FY2026、実績、独自計算)。2026年3月に約122億円の公募増資を行い、発行済株式数は約16%増えました。調達資金は、2028年8月完成予定の尼崎工場(投資額約125億円)にあてます。また、部品を供給するタイ子会社が、2026年9月の洪水で稼働を停止しています(2026年9月30日時点の会社開示)。
- 確認できた事実: FY2026の受注高は売上高の約1.12倍、期末の受注残高は前期比+40.7%で、FY2027第1四半期の営業利益率は32.1%でした(実績、独自計算)。
- 未検証の仮説: AI向けメモリーの需要が以前より長く続き、尼崎工場が稼働する2028年以降も今の利益率を保てること。HBM向けのシェアや、増収のうち市場拡大とシェア上昇の寄与は開示されていません。
- 次の決算で確認する事項: 第2四半期の営業利益率(会社予想から逆算すると23.6%)、据え置かれた下期予想の見直しの有無、売上総利益率(第1四半期47.3%)の推移、タイ子会社の洪水の影響。
事業概要・ビジネスモデル
日本電子材料は1960年に兵庫県尼崎市で設立され、ブラウン管用の電子管部品から事業を始めました。1970年に米国のRucker & Kolls社と技術提携し、プローブカードの製造販売に参入しています(有価証券報告書の沿革)。東証スタンダード市場に上場しています。
プローブカードとは: 半導体の前工程が終わったウェハ上のチップを、切り分ける前に電気的に検査する工程(ウェハテスト)で使う部品です。無数の微細な針(プローブ)をチップの電極に当てて信号をやり取りします。プローブカードは半導体の回路ごとに設計・製造される「消耗品」の性格を持ちます(有価証券報告書の事業等のリスク)。顧客が新しい製品を作るたびに新しいカードが必要になる一方、顧客の生産量や設備投資に需要が左右されます。
セグメントは2つです(FY2026、実績)。
- 半導体検査用部品関連事業: 売上高29,142百万円(売上の99.2%、独自計算)、セグメント利益9,139百万円
- 電子管部品関連事業: 売上高223百万円、セグメント利益8百万円
プローブカードは構造で3タイプに分かれます(有価証券報告書)。
- Cタイプ(カンチレバー型): 針が片持ち梁の構造を持つ従来型です。
- Vタイプ(垂直型): 針が垂直に立つタイプで、ロジックやイメージセンサーなどの高集積・高速の品種に使われます。
- Mタイプ(MEMS型): 半導体の製造技術を応用した微細加工(MEMS)で作るプローブを使うタイプです。2008年に製造販売を始めました。会社は、メモリー分野で培った「300mm一括コンタクト技術」と「高温プロービング技術」を強みに挙げています(中期経営計画の進捗資料)。
決算説明資料によると、プローブカード売上に占めるMタイプの比率は、FY2026の各四半期で77〜83%、FY2027第1四半期で83%でした(会社開示)。売上の大半が、メモリー向けのMタイプに集中しています。
Mタイプの生産は工場ごとに分業しています。本社工場(尼崎市)がプローブを、三田工場(兵庫県三田市)がST基板(スペーストランスフォーマー、配線基板)を作り、熊本事業所(熊本県菊池市)で組み立てます。熊本事業所には2024年10月に第4工場が完成しました(決算説明資料)。海外には、台湾・上海・米国に製造販売拠点があり、タイ・香港・深センの子会社は部品の仕入先です(有価証券報告書の関係会社の状況)。
売上・利益・キャッシュフローの構造
実績・会社予想・会社目標を含みます(薄色・点線は実績以外)
注: 決算期は3月。FY2026は2026年3月期(2025年4月〜2026年3月)を指す。会社資料の「2025年度」は本グラフのFY2026にあたる。FY2027は2026年8月7日修正後の会社予想(修正前は33,000百万円)。百万円未満切り捨て。
出典: 日本電子材料株式会社 2023年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 日本電子材料株式会社 2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 日本電子材料株式会社 2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 日本電子材料株式会社 2027年3月期第2四半期連結累計期間及び通期連結業績予想並びに剰余金の配当(中間配当)予想の修正に関するお知らせ(2026年8月7日) (2026-10-17参照)
売上高は、FY2022の23,599百万円から2期連続で減り、FY2024に17,461百万円まで落ち込みました(実績)。メモリー市況の悪化で、顧客がプローブカードの発注を絞ったためです。その後、FY2025に+36.5%、FY2026に+23.2%と回復し、過去最高を更新しました。会社は増収の要因として、データセンター向けや生成AIの画像処理半導体、広帯域メモリー(HBM)など、先端半導体の需要を挙げています。非メモリー向けは「軟調」だったと説明しています(決算短信)。
FY2026の受注高は32,775百万円(前期比+24.2%)、期末の受注残高は11,783百万円(同+40.7%)でした(有価証券報告書、全セグメント合計)。受注高が売上高を上回っており、受注高÷売上高は約1.12倍です(独自計算)。
実績・会社予想・会社目標を含みます(薄色・点線は実績以外)
注: 営業利益率は営業利益÷売上高で算出し、小数第2位を四捨五入した。FY2022〜FY2026は決算短信記載の売上高営業利益率と一致する。FY2027は2026年8月7日修正後の会社予想(売上高36,400百万円、営業利益9,450百万円)から算出した独自計算値。
出典: 日本電子材料株式会社 2023年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 日本電子材料株式会社 2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 日本電子材料株式会社 2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 日本電子材料株式会社 2027年3月期第2四半期連結累計期間及び通期連結業績予想並びに剰余金の配当(中間配当)予想の修正に関するお知らせ(2026年8月7日) (2026-10-17参照)
営業利益率は市況に合わせて大きく動きます。FY2022は21.0%でしたが、FY2024には5.0%まで下がり、FY2026には24.7%まで上がりました(実績)。売上高の変化に対して利益が大きく振れるのは、工場の稼働率が利益率を左右するためです。会社も、FY2026の増益要因に「国内工場の高い稼働率」を挙げています。FY2026の売上総利益率は43.9%で、前期の39.7%から上がりました(独自計算)。研究開発費は1,681百万円で、売上高の5.7%にあたります(実績、独自計算)。
注: Q1は4〜6月、Q2は7〜9月、Q3は10〜12月、Q4は1〜3月(例: FY2027 Q1は2026年4〜6月)。会社資料は「FY24/1Q」のように年度開始年で表記しており、本グラフのFY2025 Q1にあたる。各四半期の値は会社資料のグラフ数値で、合計は通期実績と1〜5百万円ずれる。会社はFY2025 Q4について「海外子会社の期ズレの影響も加わる」と注記している。四半期の営業利益は資料に掲載がないため経常利益を示した。
出典: 日本電子材料株式会社 2026年3月期通期決算説明会資料(2026年5月19日)四半期業績推移 (2026-10-17参照) / 日本電子材料株式会社 2026年度第1四半期決算補足資料(2026年8月7日) (2026-10-17参照)
直近の四半期: FY2027第1四半期(2026年4〜6月)は、売上高9,641百万円(前年同期比+77.3%)、営業利益3,094百万円(同+109.7%)でした(実績)。営業利益率は32.1%で、前年同期の27.1%を上回りました(独自計算)。会社は、メモリー向けの需要が急に増えたのに対し、先行投資で生産量を増やせたことと、円安を要因に挙げています。
ただし、内訳を見ると売上総利益率は47.3%で、前年同期の51.4%から下がっています(独自計算)。営業利益率が上がったのは、販管費が+10.9%しか増えず、売上高に占める割合が24.3%から15.2%に下がったためです(独自計算)。
会社予想の前提: 会社は2026年8月7日に、上期(2026年4〜9月)の予想を売上高19,400百万円、営業利益5,400百万円に引き上げました(会社予想)。一方、下期は「需要動向と不安定な為替相場を踏まえて」期初の想定のまま据え置き、上期の上振れ分だけを通期予想に加えています。この結果、会社予想から逆算した数値は次のとおりです(独自計算)。
- 第2四半期(2026年7〜9月): 売上高9,759百万円、営業利益2,306百万円、営業利益率23.6%
- 下期(2026年10月〜2027年3月): 売上高17,000百万円、営業利益4,050百万円、営業利益率23.8%
FY2026下期の実績は、売上高17,044百万円、営業利益4,592百万円(営業利益率26.9%)でした(独自計算)。会社予想の下期は、前年同期より売上高が横ばいで利益が少ない前提です。第1四半期の営業利益は、通期予想の32.7%にあたります(独自計算)。
実績・シナリオを含みます(薄色・点線は実績以外)。「推計」の注記は開示値そのものではなく当サイトの推計・計算による値です
注: 営業CF・投資CFは有価証券報告書の5期推移の実績値。フリーCFは営業CF+投資CFとして本記事が計算した値(独自計算)。投資CFには定期預金の預入・払戻が含まれる(FY2026は差し引き115百万円の支出)。
出典: 日本電子材料株式会社 有価証券報告書 第67期(2026年3月期) 主要な経営指標等の推移 (2026-10-17参照) / 日本電子材料株式会社 2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照)
キャッシュフロー: 営業CFは5期とも黒字です(実績)。FY2025は1,801百万円と少なく、営業利益4,585百万円を大きく下回りました。第4四半期に売上が集中し、売上債権が3,829百万円増えたためです(決算短信)。FY2026は売上債権が回収に転じ、営業CFは5,758百万円に戻りました。
投資CFは、FY2024以降の生産能力の増強で−2,202〜−3,658百万円に膨らみ、FY2025のフリーCFは−1,780百万円でした(独自計算)。FY2026のフリーCFは+2,100百万円です。会社はFY2027に7,000百万円の設備投資を計画しており、減価償却費の計画1,800百万円を大きく上回ります(会社計画)。
ROIC・資本効率
自己資本利益率(ROE)は、FY2022から順に20.4%、11.3%、2.5%、13.1%、15.0%です(実績、決算短信)。会社は「連結経常利益率10%以上、ROE10%以上」を経営指標にしています。FY2024を除けば達成しています。
本記事では、本業の資本効率を見るため、次の式で税引後ROICを計算しました(独自計算)。
- ROIC = 営業利益 ×(1 − 30%)÷ 投下資本
- 投下資本 = 純資産 + 有利子負債(社債・借入金)− 現金及び預金(期末値)
- 税率30%は簡便な仮定です。リース債務は含めていません。
この式によると、ROICはFY2025が14.8%、FY2026が20.0%でした。FY2026の投下資本は25,311百万円(純資産44,878百万円+有利子負債7,543百万円−現金及び預金27,110百万円)です。
ただし、FY2026末の現金には、2026年3月の増資で集めた資金が含まれます。会社はこの資金を尼崎工場の建設にあてると公表しており、余剰資金ではありません。現金を差し引かない場合(投下資本=純資産+有利子負債)、税引後の資本利益率はFY2025が9.5%、FY2026が9.7%です(独自計算)。尼崎工場の完成後は、増資で増えた資本が設備に置き換わります。工場の稼働後に売上と利益がどれだけ増えるかが、今後のROICを左右します。
競争優位と競争環境
確認できる事実
- 市場での位置: 調査会社TechInsightsによると、2021年のプローブカード市場は約25億ドルで、上位は1位FormFactor、2位Technoprobe、3位日本マイクロニクス、4位JEM(日本電子材料)、5位MPIでした。これより新しい順位を、一次情報では確認できませんでした。
- 顧客との結びつき: FY2026の主要な販売先は、マイクロンメモリジャパン(4,567百万円、15.6%)、MICRON MEMORY TAIWAN(4,495百万円、15.3%)、フラッシュフォワード(4,054百万円、13.8%)でした(有価証券報告書)。フラッシュフォワードは、キオクシアと米Sandiskの合弁会社です。世界の大手メモリーメーカーに、継続して採用されていることが分かります。
- 収益性: FY2026の半導体検査用部品関連事業のセグメント利益率は31.4%です(独自計算、全社費用の配賦前)。
推定(本記事の解釈)
- プローブカードは、顧客の回路設計に合わせて作る特注品で、量産ラインで使うには顧客の認定が必要です。一度採用されると、同じ顧客の次の世代の製品でも取引が続きやすい構造だと考えられます。ただし、品目ごとのシェアや、採用を競合に奪われた事例は開示されていないため、本記事では「推定」にとどめます。
- 会社は事業等のリスクで「プローブカードに対しても継続した価格要請があり」と書いています。顧客が寡占化した大手メモリーメーカーであるため、価格交渉力は顧客側に偏りやすいと考えられます。
限界・注意点: 主な競合は、海外の大手(FormFactor、Technoprobe)と国内の日本マイクロニクスです。HBMなど先端メモリー向けのシェアの開示はなく、同社の伸びが市場全体の伸びによるものか、シェアの上昇によるものかは区別できません。
成長ドライバーと市場規模
シナリオを含みます。「推計」の注記は開示値そのものではなく当サイトの推計・計算による値です
注: 会社資料に掲載された四半期ごとの地域別売上高を、本記事が4四半期分合計した値(独自計算。会社は通期の地域別売上高をこの形では開示していないため、kindはestimate_ownとした)。合計はFY2025が23,824百万円、FY2026が29,358百万円で、通期の連結売上高(23,829百万円、29,366百万円)と数百万円ずれる。地域の区分基準(顧客所在地か出荷先か)は資料に明記されていない。
出典: 日本電子材料株式会社 2026年3月期通期決算説明会資料(2026年5月19日)四半期業績推移(地域別推移) (2026-10-17参照)
地域別の動き(実績、独自計算): 会社資料の四半期の値を合計すると、FY2026は日本向けが14,290百万円(前期比+20.5%)、アジア向けが13,007百万円(同+24.2%)、北米向けが1,570百万円(同+50.7%)でした。海外の比率は51.3%です。FY2027第1四半期は、日本向けが4,558百万円、アジア向けが4,411百万円で、海外比率は53%でした(会社開示)。日本向けの売上には、広島のマイクロンメモリジャパンや、四日市・北上のフラッシュフォワード向けが含まれると考えられます(推定)。
成長ドライバー(会社説明)
- 生成AIの普及で、データセンター向けのメモリー(HBMなど)の需要が伸びていること
- メモリーメーカー各社が新工場の建設計画を発表していること
- 先端ロジックでチップレット化が進み、切り分ける前のウェハで良品を確かめる検査(Known Good Die)の重要性が増していること。会社は、メモリー向けで培った技術をロジック向けに広げる方針です。
市場規模(会社推計): 会社は「複数のデータを元にした当社予測」として、プローブカード市場を2020年に約2,300億円、2025年に約4,700億円と示しています。2030年は7,000億円超(従来予測は5,000億円超)と見込んでいます。この予測は米ドルを円に換算しているため、為替で変わります。
生産能力の増強(会社計画): 2026年2月、会社は兵庫県尼崎市に新工場(尼崎工場)を建てることを決めました。投資額は約125億円で、2028年8月に完成する予定です。延床面積は約8,000㎡で、熊本第4工場の約1.3倍の規模です。Mタイプ用のプローブなどの開発・生産を強化します。2024〜2026年度(本記事のFY2025〜FY2027)の設備投資の累計予定額は、当初計画の8,500百万円から14,882百万円に増えました(中期経営計画の進捗資料)。
中期経営計画(会社計画): 2024〜2026年度の中期経営計画では、最終年度(FY2027)の目標を、当初の売上高30,000百万円・経常利益5,000百万円から、売上高33,000百万円・経常利益7,300百万円に引き上げています。8月の修正後の会社予想(売上高36,400百万円、経常利益9,300百万円)は、この目標も上回っています。次の中期経営計画(FY2028以降)は、本記事の執筆時点では公表されていません。
経営者・資本政策
代表取締役社長は坂田輝久氏です。取締役会は7名(うち社外取締役3名)で、監査等委員会設置会社です(有価証券報告書)。2026年3月末の大株主は、日本マスタートラスト信託銀行(信託口、11.61%)、日本カストディ銀行(信託口、5.57%)、大久保和正氏(3.49%)、有限会社大久保興産(2.91%)の順です。大久保和正氏は2023年5月時点の代表取締役社長です(2023年3月期決算短信)。外国法人等の持株比率は27.6%です(有価証券報告書の所有者別状況、独自計算)。
- 公募増資(2026年3月): 一般募集で1,739,200株を1株6,478円で発行し、第三者割当(オーバーアロットメントに伴う分)で257,800株を発行しました。手取額は約122億円で、全額を尼崎工場の建設資金にあてる予定です(会社開示)。発行済株式数は12,647,416株(2025年3月末)から14,663,510株(2026年3月末)へ、約15.9%増えました(独自計算)。FY2027の会社予想では、純利益が+22.9%なのに対し、EPSは425.98円から457.42円への+7.4%にとどまります。増資で株数が増えた影響です。
- 配当: 1株当たり配当は、FY2022〜FY2024が40円、FY2025が70円、FY2026が80円でした(実績)。FY2027の予想は100円(中間60円、期末40円)です(会社予想)。会社予想EPSに対する配当性向は21.9%です(独自計算)。会社は、成長投資とのバランスを取りながら「安定的・継続的かつ利益に見合った配当」を行う方針です。
- 自社株買い: FY2026に、単元未満株の買取り以外の自社株買いはありません(有価証券報告書)。
- 財務: 2026年6月末の現金及び預金は25,043百万円、有利子負債(社債・借入金)は7,230百万円です(実績)。差し引き17,813百万円の実質手元資金があります(独自計算、リース債務を除く)。自己資本比率は78.2%です。
将来シナリオ(条件付き)
以下は将来を予測するものではありません。どのような条件のもとで何が起こりうるかを整理したものです。
- 会社予想を上回るシナリオ: AI向けのHBMなど先端メモリーの増産が2027年以降も続き、マイクロンやキオクシアなどの主要顧客の新工場が予定どおり立ち上がった場合を考えます。この場合、会社が据え置いた下期の予想(売上高17,000百万円)を上回り、FY2027の売上高が会社予想の36,400百万円を超える可能性があります。2028年8月に尼崎工場が完成し順調に稼働すれば、FY2029以降の生産能力の制約が緩む可能性があります。
- 会社予想並みのシナリオ: 第2四半期以降、会社の想定どおり営業利益率が23〜24%台に落ち着いた場合を考えます。この場合、FY2027は会社予想(売上高36,400百万円、営業利益9,450百万円)前後となります。FY2028は、尼崎工場の稼働前で生産能力の伸びが限られるため、増収率が鈍る可能性があります。
- 下振れシナリオ: メモリー市況が悪化し、顧客が設備投資や新製品の立ち上げを延期した場合を考えます。FY2024には売上高が−16.0%、営業利益が−72.8%となり、営業利益率は5.0%まで下がりました(実績。前期比は2025年3月期決算短信に記載された公式値で、百万円表示の870÷3,205から計算すると−72.9%)。この局面と同時に、尼崎工場の減価償却が始まる場合は、利益率の低下がより大きくなる可能性があります。また、マイクロン1社の発注の変化が、売上の約3割に影響します。
現在の市場評価との比較
2026年10月16日の終値7,140円をもとにした指標は次のとおりです(独自計算)。
| 指標 | 値 | 計算の前提 |
|---|---|---|
| 時価総額 | 約104,583百万円 | 期末自己株式を除く株式数14,647,476株(2026年6月末) |
| PER(会社予想) | 約15.6倍 | FY2027の会社予想EPS 457.42円 |
| PBR | 約2.25倍 | 2026年6月末の1株当たり純資産 約3,170円 |
| EV/営業利益(会社予想) | 約9.2倍 | 時価総額から実質手元資金17,813百万円を差し引いたEV÷営業利益予想9,450百万円 |
| 同上(尼崎工場の未払い分を控除) | 約10.4倍 | 実質手元資金から尼崎工場の残りの投資額11,469百万円(総額12,500百万円−2026年3月末の既支払額1,031百万円)を差し引いて計算 |
| 配当利回り(会社予想) | 約1.40% | 年間配当100円 |
参考として、各期末時点のPER(実績EPSベース、有価証券報告書)は、FY2022から順に6.76倍、7.33倍、56.31倍、6.61倍、12.23倍でした。FY2024の56.31倍は、利益が一時的に落ち込んだためです。FY2022・FY2023・FY2025の6〜7倍台と比べると、現在の約15.6倍(会社予想ベース)は高い水準にあります。FY2026中の最高株価は10,270円で(有価証券報告書)、現在の株価はその約7割の水準です(独自計算)。
市場がどのような前提を置いているかは推定になります。過去の6〜7倍台は、メモリー市況の循環で利益が大きく振れることを強く割り引いた水準と考えられます。現在の水準は、AI向けメモリーの需要が以前より長く続くという見方を、一部取り込んでいる可能性があります。一方、PER15倍台という水準は、利益の伸びがいずれ鈍るという見方も含んでいると考えられます。本記事では、どちらの見方がどの程度効いているかは検証できていません。
主要リスクと反証条件
| リスク | 内容(事実・会社開示) | 反証条件(この分析の見立てが崩れる目安) |
|---|---|---|
| メモリー市況の循環 | 売上の大半がメモリー向けのMタイプ。FY2024は売上高−16.0%、営業利益−72.8%(実績、決算短信の公式値) | 四半期の営業利益率が2四半期連続で15%を下回る |
| 顧客の集中 | マイクロンのグループ2社で30.9%、上位3社で44.7%(FY2026)。会社も「特定顧客への販売に関するリスク」として開示 | マイクロン向けの売上が前期比で20%以上減る |
| 大型投資と増資 | 尼崎工場に約125億円。発行済株式数は約15.9%増加 | 尼崎工場の完成時期の延期、または投資計画の縮小・減損が開示される |
| 価格の下落 | 顧客から継続した価格要請がある(有価証券報告書) | 売上総利益率が前年同期比で2四半期連続で5ポイント以上下がる |
| 自然災害 | タイ子会社(部品の仕入先)が2026年9月の洪水で稼働停止。熊本では2025年11月と2026年7月に地震(2026年7月の地震の影響は「限定的」と会社判断) | タイ子会社の停止による出荷遅れや損失が、第2四半期以降の業績に表れる |
| 為替 | 海外売上が約5割。第1四半期の増収要因に円安を挙げている | 円高で海外売上の円換算額が減り、会社予想を下回る |
| 競争 | 上位にFormFactor、Technoprobe、日本マイクロニクス | 主要顧客の新世代メモリー向けで、競合に置き換えられたことが判明する |
| 調達先 | 一部の装置・部材に代替が難しい取引先がある(有価証券報告書) | ― |
出典
- 日本電子材料株式会社 2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)(2026-10-17参照)
- 日本電子材料株式会社 2026年度第1四半期決算補足資料(2026-10-17参照)
- 日本電子材料株式会社 2027年3月期第2四半期連結累計期間及び通期連結業績予想並びに剰余金の配当(中間配当)予想の修正に関するお知らせ(2026年8月7日)(2026-10-17参照)
- 日本電子材料株式会社 有価証券報告書 第67期(2026年3月期)(2026-10-17参照)
- 日本電子材料株式会社 2026年3月期通期決算説明会資料(2026-10-17参照)
- 日本電子材料株式会社 2024-2026年度 JEMグループ中期経営計画(2025年度進捗状況)(2026-10-17参照)
- 日本電子材料株式会社 2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)(2026-10-17参照)
- 日本電子材料株式会社 発行価格及び売出価格等の決定に関するお知らせ(2026年3月10日)(2026-10-17参照)
- 日本電子材料株式会社 タイ国内の豪雨・洪水について(2026年9月30日)(2026-10-17参照)
- 日本電子材料株式会社 2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)(2026-10-17参照)
- 日本電子材料株式会社 2023年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)(2026-10-17参照)
- 日本電子材料株式会社 IR情報(2026-10-17参照)
- TechInsights「Probe Card Market hit $2.5B in 2021」(2026-10-17参照)
- 松井証券 日本電子材料(6855) 株価ページ(2026年10月16日終値)(2026-10-17参照)