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株式会社キーエンス(6861)

決算期: 03月 / 会計基準: 日本基準 / 分析日: 2026-10-17 / データ基準日: 2026-07-28

この記事の要点

テーマ「長期的に利益を積み上げる高ROIC企業」の中心企業です。

本記事の財務数値は、特記がない限り日本基準・連結・百万円単位(百万円未満切捨て)です。同社の決算日は3月20日で、「FY2026」は2026年3月期(2025年3月21日〜2026年3月20日)を指します。会社資料ではこの期間を「2025年度」と呼んでいます。文中では 実績(開示された数値)、会社予想(会社が公表した見通し)、独自推計(当メディアが開示数値から計算したもの)を区別して書いています。なお、同社は通期の業績予想を開示していません。

要点の詳細

事業概要・ビジネスモデル

キーエンスは、1972年に創業者の滝崎武光氏が兵庫県伊丹市で設立したリード電機を前身とする会社です(有価証券報告書「沿革」)。主な事業は「電子応用機器の製造及び販売」の単一セグメントです。FA用センサ、測定器、画像システム機器、レーザマーカのほか、研究開発向けのマイクロスコープや物流・小売向けのコードリーダなどを手がけています(有価証券報告書)。FY2026には、製造現場向けの3Dプリンタや、ライン型シリンダセンサ&スマートバルブなどの新商品を出しました(決算短信)。

ビジネスモデルの特徴を、会社の開示から整理すると次のとおりです。

特徴開示内容
企画開発「付加価値の源泉は商品である」とし、「世界初」「業界初」の商品を継続的に作ることを目指す(有価証券報告書)
ファブレス生産当社の品質管理部門が協力工場と連携して生産に深く関与する(有価証券報告書「事業等のリスク」)
直販「グローバル直販体制」を強みとし、海外でも国内と同様に直販を進める方針(有価証券報告書)
即納即納体制のため受注はほぼ売上高と均衡し、受注残高は重要でない(有価証券報告書「受注実績」)
顧客分散販売実績の10%以上を占める相手先はない(有価証券報告書)

経営方針として「最小の資本と人で最大の付加価値を上げる」を掲げ、客観的な経営指標として「売上高」「売上総利益」「営業利益」を重視しています。合理的な業績予想や目標を算出するのは難しいとして、業績予想は開示していません(有価証券報告書「経営方針」)。

顧客業種の構成比(FY2026下期、現地通貨ベース、5%刻み)は、国内・海外とも、自動車・輸送が25%、電機・精密が15%、半導体・液晶、金属・工作機械、食品・薬品がそれぞれ10%、その他が30%です(決算説明会資料)。特定の業種に偏らない構成です。

売上・利益・CFの構造

売上高の推移(連結)単位: 百万円

注: 日本基準・連結、百万円未満切捨て。決算期は3月20日(例:FY2026=2025年3月21日〜2026年3月20日、会社資料では「2025年度」と表記)。FY2023以降は収益認識会計基準を適用。会社は通期の業績予想を開示していないため、予想値はない。

出典: 有価証券報告書 第57期(2026年3月期)主要な経営指標等の推移 (2026-10-17参照) / 2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 2024年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 2022年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照)

売上高はFY2022の755,174百万円からFY2026の1,169,289百万円に増え、初めて1兆円を超えた前期(FY2025:1,059,145百万円)からさらに10.4%伸びました(実績)。4年間の年平均成長率は約11.5%です(独自計算)。ただし伸び方は一定ではありません。FY2023は+22.1%でしたが、製造業の設備投資が慎重だったFY2024は+4.9%にとどまりました(実績)。

営業利益と営業利益率(連結)単位: 百万円(利益率は%)

注: 営業利益率=営業利益÷売上高(小数第2位を四捨五入)。決算短信記載の売上高営業利益率(55.4/54.1/51.2/51.9/51.0%)と一致。会社は通期の業績予想を開示していない。

出典: 2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 2024年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 2022年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照)

営業利益はFY2022の418,045百万円からFY2026の595,759百万円へ増えました(実績)。年率は約9.3%(独自計算)で、売上高の伸びを下回っています。営業利益率は55.4%(FY2022)から51.0%(FY2026)へ下がりました。

内訳を見ると、売上総利益率はFY2022の82.3%からFY2026の83.0%へとほぼ横ばいです。一方、販売費及び一般管理費の対売上高比率は26.9%から32.1%へ上がりました(いずれも決算短信の数値から独自計算)。原価率ではなく、販管費の増加が利益率を押し下げています。

販管費が増えた背景の一つが人員の増加です。連結従業員数はFY2022末の8,961人からFY2026末の12,784人へ約42.7%増えました(有価証券報告書)。同じ期間に営業利益は約42.5%増えており、従業員1人当たり営業利益は約46.7百万円(FY2022)と約46.6百万円(FY2026)でほぼ同じです(期末従業員数で独自計算)。直販モデルのため、営業人員を増やし育てることが売上を伸ばす主な手段であり、人員と利益がほぼ同じ比率で増えてきたと読み取れます。

地域別売上高と海外売上高比率(連結)単位: 百万円(比率は%)

実績・シナリオを含みます(薄色・点線は実績以外)。「推計」の注記は開示値そのものではなく当サイトの推計・計算による値です

注: 同社は単一セグメントのため、事業別の売上は開示されていない。国内・海外の売上高は決算短信の関連情報(実績)。海外売上高比率=海外売上高÷売上高で当メディアが計算したもの(小数第2位を四捨五入)。円換算後の数値で、為替変動の影響を含む。

出典: 2026年3月期 決算短信 セグメント情報等(地域ごとの売上高) (2026-10-17参照) / 2024年3月期 決算短信 セグメント情報等(地域ごとの売上高) (2026-10-17参照) / 2022年3月期 決算短信 セグメント情報等(地域ごとの売上高) (2026-10-17参照)

地域別では、国内売上高は年率約5.9%、海外売上高は年率約15.0%で伸びました(FY2022〜FY2026、実績から独自計算)。海外売上高比率は66.6%(FY2026)です。FY2026の海外売上高は円換算で+13.5%、現地通貨ベースで+12.9%でした(決算説明会資料)。海外のうち北中南米は+15.1%、アジアは+17.0%、欧州・その他は+2.9%です(現地通貨ベース)。会社は「海外の市場規模と比べ当社商品の浸透度は未だ小さく、大きな成長余地がある」としています(有価証券報告書)。

四半期売上高と営業利益率(連結)単位: 億円(利益率は%)

注: 会社の決算説明会資料に記載された億円単位の数値と営業利益率をそのまま使用。会社資料の「2025年度4Q」は当メディア表記のFY2026Q4(2025年12月21日〜2026年3月20日)、「2026年度1Q」はFY2027Q1(2026年3月21日〜6月20日)に当たる。FY2027Q1の決算短信上の売上高は346,621百万円、営業利益は187,076百万円。

出典: 2025年度 決算説明会資料(連結業績<四半期推移>)2026年4月24日 (2026-10-17参照) / 2026年度 第1四半期 決算説明会資料(連結業績<四半期推移>)2026年7月28日 (2026-10-17参照)

直近の四半期では伸びが加速しています。FY2027第1四半期(2026年3月21日〜6月20日)の売上高は346,621百万円(前年同期比+32.8%)、営業利益は187,076百万円(同+44.7%)、営業利益率は54.0%でした(実績)。会社資料によると、為替の影響は売上高で約+261億円、営業利益で約+189億円あります。これを除いて単純に計算すると、売上高は約+23%、営業利益は約+30%です(独自計算。為替影響額は会社の概数を使用)。現地通貨ベースでは国内+19.9%、海外+24.0%、うちアジアは+33.9%でした(決算説明会資料)。会社はアジアで「半導体・電気精密業界を中心に成長が継続」と説明しています(決算短信)。

営業キャッシュ・フローと簡易フリーキャッシュ・フロー(連結)単位: 百万円

実績・シナリオを含みます(薄色・点線は実績以外)。「推計」の注記は開示値そのものではなく当サイトの推計・計算による値です

注: 有形固定資産の取得による支出は支出額を正の値で表示。簡易FCFは当メディアの計算で、投資CFの「その他」(FY2026は32,124百万円の支出。無形固定資産の取得等を含むとみられるが内訳は短信に記載なし)、定期預金・有価証券の増減は含めていない。

出典: 2026年3月期 決算短信 連結キャッシュ・フロー計算書 (2026-10-17参照) / 2024年3月期 決算短信 連結キャッシュ・フロー計算書 (2026-10-17参照) / 2022年3月期 決算短信 連結キャッシュ・フロー計算書 (2026-10-17参照)

営業キャッシュ・フローはFY2026に430,680百万円でした(実績)。有形固定資産の取得による支出(28,371百万円)を差し引いた簡易FCFは402,309百万円です(独自計算)。FY2026の設備投資は、次期ロジスティクスセンターや新商品用の金型などが中心です(有価証券報告書)。大阪府高槻市に建設中の次期ロジスティクスセンターは、延床面積が現行施設の約4倍で、2026年11月竣工、2027年11月稼働開始の予定です(決算説明会資料)。生産を外部に委託しているため、売上高に比べて設備投資は小さい構造です。

ROIC・資本効率

ROEと2つのROIC(事業ベース・純資産ベース)単位: %

実績・シナリオを含みます(薄色・点線は実績以外)。「推計」の注記は開示値そのものではなく当サイトの推計・計算による値です

注: ROEは決算短信記載値。ROICは会社が開示していないため当メディアが計算。税引後営業利益=営業利益×(1−実効税率)、実効税率=法人税等合計÷税金等調整前当期純利益(FY2022〜FY2026:29.7/29.2/28.8/28.9/30.0%)。事業投下資本=期末の受取手形及び売掛金+棚卸資産+有形固定資産+無形固定資産−支払手形及び買掛金(FY2022〜FY2026:323,960/437,790/452,076/466,576/577,872百万円)。有利子負債は実質的にないため、純資産ベースROICの分母は期末純資産とした。いずれも期末残高ベースで、期中平均ではない。

出典: 2026年3月期 決算短信(自己資本当期純利益率、連結貸借対照表、連結損益計算書) (2026-10-17参照) / 2024年3月期 決算短信(同上) (2026-10-17参照) / 2022年3月期 決算短信(同上) (2026-10-17参照)

キーエンスはROICを開示していないため、当メディアで2通りの方法で計算しました(独自推計。定義はグラフの注記を参照)。

  1. 事業ROIC(売上債権・棚卸資産・有形/無形固定資産から仕入債務を引いた「事業に使っている資本」に対する税引後営業利益):FY2026は72.2%、FY2022〜FY2025は77.9〜90.8%でした。ファブレスで工場を持たず、即納のため受注残もないので、事業に必要な資本が売上高の半分程度(FY2026の事業投下資本は577,872百万円)で済みます。FY2026に低下したのは、売上債権が増え(320,312→379,590百万円)、無形固定資産(6,338→29,181百万円)とロジスティクスセンター関連の有形固定資産が増えたためです(決算短信の貸借対照表)。
  2. 純資産ベースROIC(期末純資産に対する税引後営業利益):12.0〜14.2%で推移しました。

2つの数字が大きく違うのは、会社が多額の余剰資金を持っているためです。FY2026末の現金及び預金(596,976百万円)、有価証券(896,913百万円)、投資有価証券(1,514,304百万円)の合計は3,008,193百万円で、総資産3,670,655百万円の約82%を占めます(決算短信から独自計算)。有利子負債は実質的になく、自己資本比率は94.6%です。ROE(FY2026:13.5%)は、とても収益性の高い事業と、利回りの低い金融資産を合わせた数字になっています。

まとめると、事業そのものの資本効率は極めて高い一方で、生み出した現金のかなりの部分を金融資産として持ち続けていることが、会社全体の資本効率を抑えています。

競争優位と競争環境

開示から読み取れる競争優位の源泉は次の4つです。

競争環境については、FA用センサ、画像処理、測定器の各分野で国内外の電機・制御機器メーカーと競合しますが、同社は製品分野別の売上やシェアを開示していません。そのため、分野ごとの競争上の位置は開示資料からは確かめられません。

成長ドライバーと市場規模

会社は対処すべき課題として「企画開発力の強化」と「海外事業の拡大」を挙げています(有価証券報告書)。数字の上で成長の中心になっているのは海外です。

同社の対象市場(FA用センサ・計測・画像処理など)の規模や、その中での同社のシェアについては、会社の開示がありません。一次情報で確認できる市場規模の数値がないため、本記事では書いていません。

経営者・資本政策

代表取締役社長は中野鉄也氏です。創業者の滝崎武光氏(取締役名誉会長)は、2026年6月12日の定時株主総会で取締役を退任しました(2026年3月期決算短信「役員の異動」)。2026年3月20日現在の大株主は、株式会社ティ・ティが15.07%(筆頭株主)、公益財団法人キーエンス財団が4.57%、滝崎武光氏個人が3.15%を持っています(有価証券報告書「大株主の状況」)。取締役9名のうち社外取締役は4名、監査役3名は全員社外です(有価証券報告書)。

株主還元では、1株当たり配当金がFY2025の350円からFY2026は550円へ増え、配当性向は21.3%から30.0%に上がりました(実績)。FY2027の配当予想は550円(会社予想)です。FY2026の配当金支払額は109,136百万円で、簡易FCF(402,309百万円)の約27%にあたります(独自計算)。自己株式の取得は単元未満株の買取りだけです(有価証券報告書)。

資金の使い道について、会社は2026年4月の決算説明会で次の方針を示しました(決算説明会資料)。

  1. 成長投資:「あらかじめ検討枠を設けることなく」新商品開発、海外事業、直販体制、生産・出荷体制の強化を最優先する。M&Aは「時期や金額規模にとらわれることなく」検討する。
  2. 人的資本への投資を続ける。
  3. 安定的な配当を続け、自己株式の取得は経営環境に応じて機動的に行う。

約3兆円の金融資産を今後どう使うかが、全社の資本効率を左右する論点です。

将来シナリオ(条件付き)

会社予想がないため、以下はすべて条件付きの見方です。具体的な数値予測ではありません。

現在の市場評価との比較

2026年10月16日の終値は80,760円です(日本経済新聞・株価四本値)。これをもとに計算した指標は次のとおりです(いずれも独自計算)。

指標値計算の前提
時価総額約19.6兆円自己株式を除く発行済株式数242,525,085株(FY2027第1四半期末)
PER(実績)約44.0倍FY2026のEPS 1,835.63円
PER(直近4四半期)約39.8倍FY2026純利益からFY2026第1四半期を引き、FY2027第1四半期を足した492,202百万円
PBR約5.6倍FY2026末の1株当たり純資産14,313.86円
配当利回り約0.68%FY2027の配当予想550円
金融資産控除後の時価総額÷税引後営業利益約39.7倍時価総額からFY2026末の現預金・有価証券・投資有価証券(3,008,193百万円)を引き、FY2026の税引後営業利益(417,178百万円)で割ったもの

有価証券報告書に記載された各期末のPERは、FY2022から順に43.81倍、40.26倍、46.77倍、37.07倍、32.19倍です。現在のPER(約44倍)は、FY2026期末の水準を大きく上回り、過去5期の上の方の水準にあります。FY2026期末からの株価上昇は、FY2027第1四半期の業績加速を反映したものと考えられます。

金融資産を除いて見ても、本業の税引後利益の約40倍で評価されています。FY2022〜FY2026の営業利益の伸び(年率約9.3%)を上回る成長が長く続くことを、ある程度織り込んだ水準と解釈できます。第1四半期の加速が一時的だった場合、評価の前提とのギャップが生じる可能性があります。

主要リスクと反証条件

リスク内容反証条件(仮説が崩れたと判断する目安)
設備投資サイクル顧客は製造業中心で、設備投資の減速が業績に直結する(FY2024の例)通期の売上高成長率(現地通貨ベース)が5%を下回り、営業利益が2期連続で減益になる
利益率の低下人員増に伴う販管費の増加が、売上総利益の伸びを上回り続ける通期の営業利益率が2期連続で48%を下回る
為替海外売上が約3分の2を占め、円高は円換算の売上・利益を押し下げる(外部要因のため反証条件ではなく、感応度で影響を確認する)
人材直販モデルでは人材の採用・育成ペースが成長の上限になりうる(有価証券報告書「事業等のリスク」)連結従業員数の増加が止まる一方で、従業員1人当たり営業利益も伸びない
供給・地政学ファブレスのため生産委託先や部品供給の混乱、海外の輸出入規制の影響を受ける(有価証券報告書)商品供給の制約が決算資料で減収要因として説明される
資本配分約3兆円の金融資産が低利回りで積み上がり、ROEを抑える。大型M&Aを行う場合は統合リスクがある純資産ベースのROICが10%を下回る、または買収後に事業ROICが大きく低下する
ガバナンス創業者が取締役を退任し、経営と企業文化の継続性が問われる段階に入った経営方針・開示姿勢の大きな変更、幹部人材の流出が報じられる

次に確認する主な機会は、2026年10月下旬に予定されるFY2027第2四半期決算です。第1四半期の加速(特にアジアと半導体・電機業種)が第2四半期も続くかが焦点です。

出典