テーマ一覧 > 半導体サプライチェーンの隠れた優良企業

山一電機株式会社(6941)

決算期: 03月 / 会計基準: 日本基準 / 分析日: 2026-10-17 / データ基準日: 2026-08-05

この記事の要点

テーマ「半導体サプライチェーンの隠れた優良企業」の関連企業(比較対象)です。

この記事の財務数値は、特に断りがない限り連結・日本基準です。決算期は3月で、「FY2026」は2026年3月期(2025年4月〜2026年3月)を指します。会社資料の「2025年度」は、本記事のFY2026にあたります。金額は決算短信・有価証券報告書の百万円表示(百万円未満切り捨て)に従います。四半期の推移と事業別の会社予想は、会社の説明会資料の億円表示を使います。文中では 実績(開示された過去の数値)、会社予想・会社計画(会社が公表した見通し)、独自計算・推定(本記事が開示数値から計算・解釈したもの)を区別して書きます。分析日(2026年10月17日)時点の最新の実績は、2027年3月期の第1四半期(2026年4〜6月)です。

要点の詳細

事業概要・ビジネスモデル

山一電機は1956年に東京都品川区で設立され、真空管用ソケットの製造販売から事業を始めました(有価証券報告書の沿革)。本社は東京都大田区にあり、東証プライム市場に上場しています。連結子会社は15社、連結従業員は2,060人です(FY2026末、有価証券報告書)。

セグメントは3つです(FY2026、実績)。売上構成比は独自計算です。

セグメント主な製品売上高構成比セグメント利益利益率
テストソリューション(TS)バーンインソケット、テストソケット、テスト関連サービス26,424百万円50.1%7,009百万円26.5%
コネクタソリューション(CS)高速伝送用コネクタ、カードコネクタ、FPC(YFLEX)など24,742百万円47.0%4,406百万円17.8%
光関連(OPT)光学フィルタ、半導体レーザ光源1,531百万円2.9%206百万円13.5%

ICソケットとは: 完成した半導体チップを検査装置につなぐための部品です。チップを壊さずに着脱でき、多数のピンで電気信号をやり取りします。

  1. バーンインソケット: 高温・高電圧をかけて初期不良を洗い出す「バーンイン試験」で使います。メモリー向けと、ロジック(車載のマイコンなど)向けがあります。
  2. テストソケット: 出荷前の最終検査で使います。会社は、主力をSLT(システムレベルテスト)用のソケットとし、スマートフォンやPC向けを中心に、車載・ウェアラブル・ネットワークへ広げる方針です(中期経営計画)。

ICソケットは顧客のチップの形状やピン配置に合わせて作り、検査で繰り返し使うと摩耗します。このため、顧客の新製品の立ち上げや増産に合わせて需要が生まれます。一方、顧客の設備投資が止まると需要も減ります。会社も、テストソリューション事業の需要は「過去において世界の半導体需給に大きく影響を受けた」と書いています(有価証券報告書の事業等のリスク)。

生産と販売の体制: テストソリューション事業とコネクタソリューション事業の製品は、一部を除きフィリピンの子会社(プライコンマイクロエレクトロニクス)で作っています。国内の佐倉事業所(千葉県佐倉市)、韓国、ドイツにも生産拠点があります。光関連事業は神奈川県秦野市の光伸光学工業が製造販売しています(有価証券報告書)。販売は米国・ドイツ・シンガポール・香港などの子会社が担い、FY2026の売上の91.1%が日本以外の顧客向けでした(顧客の所在地ベース、独自計算)。

売上・利益・キャッシュフローの構造

売上高の推移(連結)単位: 百万円

実績・会社予想・会社目標を含みます(薄色・点線は実績以外)

注: FY2022〜FY2026は有価証券報告書の5期推移(千円表示)の百万円未満を切り捨てた実績値で、各期の決算短信の値と一致する。FY2027は2026年8月5日に上方修正された会社予想(修正前は60,000百万円)。FYは3月決算期(例: FY2026=2026年3月期)。

出典: 山一電機株式会社 有価証券報告書 第71期(2026年3月期) 主要な経営指標等の推移 (2026-10-17参照) / 山一電機株式会社 2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 山一電機株式会社 2027年3月期 第1四半期決算説明会資料(2026年8月5日) (2026-10-17参照)

売上高はFY2023に46,985百万円まで増えたあと、FY2024に36,423百万円(前期比−22.5%)へ減りました(実績)。その後、FY2025に45,298百万円(+24.4%)、FY2026に52,698百万円(+16.3%)と増え、過去最高を更新しました。

営業利益と営業利益率(連結)単位: 百万円(営業利益率は%)

実績・会社予想・会社目標を含みます(薄色・点線は実績以外)

注: 営業利益率は営業利益÷売上高で算出し、小数第2位を四捨五入した。FY2022〜FY2026は決算短信の売上高営業利益率と一致する。FY2027は2026年8月5日に修正された会社予想(売上高65,800百万円、営業利益15,000百万円)から算出した独自計算値。

出典: 山一電機株式会社 2023年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 山一電機株式会社 2024年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 山一電機株式会社 2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 山一電機株式会社 2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 山一電機株式会社 2027年3月期 第1四半期決算説明会資料(2026年8月5日) (2026-10-17参照)

営業利益率は、FY2022が21.2%、FY2023が19.4%で、FY2024に8.1%まで下がりました(実績)。この年の営業利益は2,933百万円で、前期比−67.9%でした。売上高が22.5%減っただけで営業利益が7割近く減ったのは、固定費の比率が高いためと考えられます(推定)。FY2025は18.2%、FY2026は21.9%まで戻りました。FY2026の売上総利益率は40.6%、販管費の売上高比率は18.7%です(独自計算)。研究開発費は1,249百万円で、売上高の2.4%にあたります(実績、独自計算)。

セグメント別の営業利益(連結)単位: 百万円

注: セグメント利益は営業利益ベースで、全社の調整額(FY2023: +229百万円、FY2024: +180百万円、FY2025: −74百万円、FY2026: −64百万円)を含まない。千円表示の百万円未満を切り捨て。FY2022のセグメント別の値は本記事では未取得。

出典: 山一電機株式会社 2024年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) セグメント情報等の注記 (2026-10-17参照) / 山一電機株式会社 2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) セグメント情報等の注記 (2026-10-17参照)

セグメントの変化: 利益の柱は、もともとテストソリューション事業でした。この事業の営業利益率は、FY2023が29.3%、FY2024が11.6%、FY2025が28.3%、FY2026が26.5%で、半導体市況とともに大きく動きます(独自計算)。FY2026は、スマートフォン・PC向けのテストソケットが好調だった一方、自動車用ロジック半導体向けのバーンインソケットは顧客の投資先送りで減りました。金や銅などの原材料価格の高騰も利益を押し下げました(決算短信)。

変化が大きいのはコネクタソリューション事業です。営業利益は、FY2025の1,213百万円からFY2026の4,406百万円へ3.6倍に増え、営業利益率は6.4%から17.8%に上がりました(独自計算)。会社は、基幹系の通信機器向けと、AIを含むデータセンター向けが「大幅に増加」したと説明しています。一方、車載機器向けはEVの減速などで低調でした(決算短信)。会社は中期経営計画の総括で「事業ポートフォリオにおける収益性の不均衡は改善傾向にある」と書いています。

受注: FY2026の受注高は58,388百万円(前期比+39.2%)、期末の受注残高は18,679百万円(同+43.8%)でした(有価証券報告書、全セグメント合計)。受注高÷売上高は約1.11倍です(独自計算)。テストソリューション事業の受注残高は12,046百万円(同+54.7%)でした。

四半期ごとの売上高と営業利益(連結)単位: 億円

注: 会社の説明会資料の億円表示(売上高は億円未満、営業利益は0.1億円未満の端数処理)をそのまま使用。このため4四半期の合計(売上高525億円、営業利益115.4億円)は通期実績(526億円、115.5億円)と端数で一致しない。FY2026 Q1=2025年4〜6月、FY2027 Q1=2026年4〜6月。

出典: 山一電機株式会社 2027年3月期 第1四半期決算説明会資料(2026年8月5日) 3ページ (2026-10-17参照)

直近の四半期: FY2027第1四半期(2026年4〜6月)は、売上高19,893百万円(前年同期比+35.8%)、営業利益5,953百万円(同+55.8%)で、四半期として過去最高でした(実績)。営業利益率は29.9%で、前年同期の26.1%を上回りました(独自計算)。会社資料の億円表示では、FY2026の各四半期の売上高は120億〜146億円、営業利益は22.4億〜38.2億円だったので、第1四半期の198億円・59.5億円は大きく水準を上げています。

円安の効果: 第1四半期の平均為替レートは1ドル159.49円で、前年同期の144.59円より14.90円円安でした。会社は、為替が前年同期比で売上高を18.4億円、営業利益を10.9億円押し上げたと開示しています(説明会資料)。営業利益の増加21.3億円のうち、約半分が為替の効果です(独自計算)。会社が示す感応度は、1ドル1円の変化で年間の売上高3.1億円、営業利益1.9億円です。

会社予想の前提: 修正後の会社予想から逆算すると、次のとおりです(独自計算)。

FY2026下期の実績は、売上高259億円、営業利益51.4億円(営業利益率19.8%)でした(億円表示から独自計算)。会社予想は、第2四半期以降の為替を1ドル150円と、第1四半期の実績より約9.5円の円高に置いています。第1四半期の営業利益は、通期予想の39.7%にあたります(独自計算)。第2四半期の実績は2026年11月5日に発表される予定です。

営業CF・投資CF・フリーCF(連結)単位: 百万円

実績・シナリオを含みます(薄色・点線は実績以外)。「推計」の注記は開示値そのものではなく当サイトの推計・計算による値です

注: 営業CF・投資CFは有価証券報告書の5期推移(千円表示)の百万円未満を切り捨てた実績値。フリーCFは営業CF+投資CFとして本記事が計算した値(独自計算)。投資CFには定期預金の預入・払戻を含む。

出典: 山一電機株式会社 有価証券報告書 第71期(2026年3月期) 主要な経営指標等の推移 (2026-10-17参照) / 山一電機株式会社 2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照)

キャッシュフロー: 営業CFは5期とも黒字です(実績)。FY2024は利益の減少で3,230百万円に減り、フリーCFは−991百万円でした(独自計算)。それ以外の年のフリーCFは、FY2022が5,354百万円、FY2023が5,988百万円、FY2025が5,348百万円、FY2026が6,584百万円です(独自計算)。FY2026の設備投資は3,384百万円(有形固定資産の受入ベース)、減価償却費は3,274百万円でした(実績)。会社はFY2027に設備投資47.2億円、減価償却費34.9億円を計画しています(会社計画)。

ROIC・資本効率

ROEは、FY2022から順に23.7%、21.1%、5.5%、13.5%、21.1%です(実績、有価証券報告書)。前中期経営計画ではROE10%以上を目標にしていました。2026年5月に公表した新しい中期経営計画では、目標を「ROE18%以上」に引き上げています(会社計画)。

本記事では、本業の資本効率を見るため、次の式で税引後ROICを計算しました(独自計算)。

この式によると、ROICはFY2025が17.4%、FY2026が23.2%でした。FY2026の投下資本は34,899百万円(純資産46,706百万円+有利子負債5,983百万円−現金及び預金17,790百万円)です。現金を差し引かない場合(投下資本=純資産+有利子負債)は、FY2025が12.5%、FY2026が15.4%です(独自計算)。

自己資本比率は73.6%で(FY2026末、実績)、現金及び預金が有利子負債を11,807百万円上回ります(独自計算、リース債務を含む)。ROEが高いのは借入による効果ではなく、利益率の高さによるものです。

競争優位と競争環境

確認できる事実

推定(本記事の解釈)

限界・注意点: テストソケット・バーンインソケットの市場シェアは、一次情報では確認できませんでした。国内外に競合メーカーがありますが、本記事では比較に必要なデータを取得できていません。同社の伸びが市場全体の伸びによるものか、シェアの上昇によるものかは区別できません。

成長ドライバーと市場規模

成長ドライバー(会社説明)

市場規模: 会社はICソケットやコネクタの市場規模を数値で示していません。本記事でも一次情報の数値は確認できませんでした。

中期経営計画(会社計画、2026年5月13日公表): FY2027〜FY2029の3年間の累計で、売上高1,950億円、営業利益420億円(営業利益率21.5%)、当期利益295億円を目標にしています。前の3年間(FY2024〜FY2026)の累計実績は、売上高1,344億円、営業利益227億円でした。年度ごとの計画は次のとおりです。

年度売上高(計画)営業利益(計画)
FY2027600億円130億円
FY2028650億円140億円
FY2029700億円150億円

2026年8月の修正後のFY2027予想(売上高658億円、営業利益150億円)は、初年度で計画を大きく上回り、最終年度の営業利益の計画に並びました。ただし、前の中期経営計画では、FY2024の計画(売上高420億円、営業利益66億円)に対し実績は364億円・29億円で、大きく届きませんでした(中期経営計画の総括)。半導体市況の変化で、計画と実績が大きくずれる年があることを示しています。

設備投資(会社計画): 3年間で180億円を計画しており、前の3年間の実績133億円を上回ります。フィリピン工場と佐倉工場の生産能力の増強、新製品の開発、新技術への先行投資などにあてる計画です。

経営者・資本政策

代表取締役社長は亀谷淳一氏で、2021年6月に就任しました(有価証券報告書の沿革)。

将来シナリオ(条件付き)

以下は将来を予測するものではありません。どのような条件のもとで何が起こりうるかを整理したものです。

現在の市場評価との比較

2026年10月16日の終値8,730円をもとにした指標は次のとおりです(独自計算)。

指標値計算の前提
時価総額約161,124百万円自己株式を除く株式数18,456,360株(2026年6月末の発行済株式数20,529,775株から自己株式2,073,415株を差し引いた株数、第1四半期決算短信)
PER(会社予想)約15.6倍FY2027の会社予想EPS 557.89円
PBR約3.28倍第1四半期末の1株当たり純資産2,658.17円
EV/営業利益(会社予想)約10.0倍時価総額からFY2026末の実質手元資金11,807百万円を差し引いたEV÷営業利益予想15,000百万円
配当利回り(会社予想)約1.92%年間配当168円

参考として、各期末時点のPER(実績EPSベース、有価証券報告書)は、FY2022から順に5.9倍、5.7倍、24.8倍、8.0倍、15.0倍でした。FY2024の24.8倍は、利益が一時的に落ち込んだためです。会社によると、PBRはFY2024末が1.34倍、FY2025末が1.02倍、FY2026末が2.93倍でした(中期経営計画)。この2年で、市場の評価の前提は大きく変わっています。

株価は2026年6月23日に年初来高値11,420円をつけ、現在はその約76%の水準です。10月15日の終値は8,710円で、前日(10月14日)の終値10,080円から13.59%下がりました(2026年10月17日にYahoo!ファイナンスで確認した終値から独自計算。同ページの表示は日々更新されるため、後日は同じ値を確認できない場合があります)。下落の理由は、会社開示では確認できませんでした。

市場がどのような前提を置いているかは推定になります。FY2022〜FY2023の6倍前後のPERは、半導体市況の循環で利益が大きく振れることを強く割り引いた水準と考えられます。現在の15倍台は、AIデータセンター向けのコネクタという、テスト以外の成長源が加わったことを一部取り込んでいる可能性があります。一方で、第1四半期の利益の約半分が円安の効果だったことを考えると、会社予想EPSそのものが為替の前提に左右されます。本記事では、どちらの要因がどの程度株価に効いているかは検証できていません。

主要リスクと反証条件

リスク内容(事実・会社開示)反証条件(この分析の見立てが崩れる目安)
半導体市況の循環FY2024は売上高−22.5%、営業利益−67.9%(実績)。会社もTS事業の需要が半導体需給に大きく影響されると開示四半期の営業利益率が2四半期連続で15%を下回る
顧客の集中Qualcomm Technologiesへの販売が売上の20.8%(FY2026)Qualcomm向けの売上が前期比で20%以上減る
為替売上の91.1%が海外顧客向け。第1四半期の営業利益の増加の約半分が円安の効果1ドル140円台前半の円高が続き、会社予想が下方修正される
生産拠点の集中TS・CS事業の製品の多くをフィリピンで生産(有価証券報告書)フィリピン工場の操業停止や、出荷遅れによる損失が開示される
原材料価格金・銅などの価格高騰がFY2026の利益を押し下げた(決算短信)売上総利益率が前年同期比で2四半期連続で3ポイント以上下がる
価格競争業界の価格競争は激化しており、一層の価格下落が予想されると会社が開示主要製品で競合への置き換えが判明する
車載の低迷自動車用ロジック向けバーンインソケットと車載コネクタが低調車載向けの低迷が長引き、CS事業の利益率が10%を下回る
中期経営計画の実行3年で設備投資180億円、戦略投資50億円M&Aなどの戦略投資で減損が発生する、またはROEが18%を2期連続で下回る

出典