山一電機株式会社(6941)
この記事の要点
- 半導体の検査用ICソケットとコネクタのメーカーです。2026年3月期は営業利益率21.9%、ROE21.1%で過去最高益でしたが、半導体不況の2024年3月期には営業利益が前期比−67.9%(利益率8.1%)まで落ち込んでいます(実績)。
- 変化が大きいのはAIデータセンター向けを含むコネクタ事業で、営業利益は1年で3.6倍になりました(実績)。検査工程の循環に左右されない成長源として育つかが焦点です。
- 2027年3月期第1四半期の営業利益の増加21.3億円のうち10.9億円は円安の効果でした(会社開示)。会社予想は第2四半期以降を1ドル150円とし、下期の営業利益率を19.1%と第1四半期の29.9%より低く置いています(独自計算)。
テーマ「半導体サプライチェーンの隠れた優良企業」の関連企業(比較対象)です。
この記事の財務数値は、特に断りがない限り連結・日本基準です。決算期は3月で、「FY2026」は2026年3月期(2025年4月〜2026年3月)を指します。会社資料の「2025年度」は、本記事のFY2026にあたります。金額は決算短信・有価証券報告書の百万円表示(百万円未満切り捨て)に従います。四半期の推移と事業別の会社予想は、会社の説明会資料の億円表示を使います。文中では 実績(開示された過去の数値)、会社予想・会社計画(会社が公表した見通し)、独自計算・推定(本記事が開示数値から計算・解釈したもの)を区別して書きます。分析日(2026年10月17日)時点の最新の実績は、2027年3月期の第1四半期(2026年4〜6月)です。
要点の詳細
- 事業の質: 半導体の検査工程で使うICソケット(バーンインソケット・テストソケット)と、電子機器向けのコネクタを作っています。営業利益率は、半導体不況のFY2024に8.1%まで下がりましたが、FY2026には21.9%に戻りました(実績)。ROEはFY2026に21.1%でした(実績)。
- 成長余地: 売上高はFY2024の36,423百万円からFY2026の52,698百万円へ増えました(実績)。会社は2026年8月に予想を上方修正し、FY2027の売上高を65,800百万円(前期比+24.9%)、営業利益を15,000百万円(同+29.8%)としています(会社予想)。この営業利益は、2026年5月に公表した中期経営計画で最終年度(FY2029)に置いた150億円と同じ水準です。
- 市場評価: 株価8,730円(2026年10月16日終値)は、会社予想EPS 557.89円に対してPER約15.6倍、第1四半期末の1株当たり純資産に対してPBR約3.28倍です(独自計算)。期末時点のPERは、FY2022〜FY2025に5.7〜24.8倍、FY2026末に15.0倍でした(有価証券報告書)。
- リスク: 米Qualcomm Technologiesへの販売が売上の20.8%を占めます(FY2026、実績)。第1四半期の営業利益の増加21.3億円のうち、10.9億円は円安の効果でした(会社開示)。会社は第2四半期以降の為替を1ドル150円と置いています。テストソリューション事業とコネクタソリューション事業の製品の多くはフィリピンで作っており、生産拠点が集中しています(有価証券報告書)。
- 確認できた事実: FY2026の受注高は売上高の約1.11倍、テストソリューション事業の受注残高は前期比+54.7%で、FY2027第1四半期の営業利益率は29.9%と四半期の過去最高でした(実績、独自計算)。
- 未検証の仮説: コネクタ事業の成長が、検査工程の循環による利益の振れを和らげること。FY2026のような21%台の営業利益率を次の調整局面でも保てるかは、FY2024の実績(8.1%)を見る限り確かではありません。第1四半期の増益の約半分は円安の効果で、為替を除いた実力値の推移はまだ確認できていません。
- 次の決算で確認する事項: 第2四半期(2026年11月5日発表予定)の営業利益率(会社予想から逆算すると20.9%)、為替の前提(1ドル150円)と実際の差、コネクタソリューション事業の利益率(第1四半期19.0%)。
事業概要・ビジネスモデル
山一電機は1956年に東京都品川区で設立され、真空管用ソケットの製造販売から事業を始めました(有価証券報告書の沿革)。本社は東京都大田区にあり、東証プライム市場に上場しています。連結子会社は15社、連結従業員は2,060人です(FY2026末、有価証券報告書)。
セグメントは3つです(FY2026、実績)。売上構成比は独自計算です。
| セグメント | 主な製品 | 売上高 | 構成比 | セグメント利益 | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| テストソリューション(TS) | バーンインソケット、テストソケット、テスト関連サービス | 26,424百万円 | 50.1% | 7,009百万円 | 26.5% |
| コネクタソリューション(CS) | 高速伝送用コネクタ、カードコネクタ、FPC(YFLEX)など | 24,742百万円 | 47.0% | 4,406百万円 | 17.8% |
| 光関連(OPT) | 光学フィルタ、半導体レーザ光源 | 1,531百万円 | 2.9% | 206百万円 | 13.5% |
ICソケットとは: 完成した半導体チップを検査装置につなぐための部品です。チップを壊さずに着脱でき、多数のピンで電気信号をやり取りします。
- バーンインソケット: 高温・高電圧をかけて初期不良を洗い出す「バーンイン試験」で使います。メモリー向けと、ロジック(車載のマイコンなど)向けがあります。
- テストソケット: 出荷前の最終検査で使います。会社は、主力をSLT(システムレベルテスト)用のソケットとし、スマートフォンやPC向けを中心に、車載・ウェアラブル・ネットワークへ広げる方針です(中期経営計画)。
ICソケットは顧客のチップの形状やピン配置に合わせて作り、検査で繰り返し使うと摩耗します。このため、顧客の新製品の立ち上げや増産に合わせて需要が生まれます。一方、顧客の設備投資が止まると需要も減ります。会社も、テストソリューション事業の需要は「過去において世界の半導体需給に大きく影響を受けた」と書いています(有価証券報告書の事業等のリスク)。
生産と販売の体制: テストソリューション事業とコネクタソリューション事業の製品は、一部を除きフィリピンの子会社(プライコンマイクロエレクトロニクス)で作っています。国内の佐倉事業所(千葉県佐倉市)、韓国、ドイツにも生産拠点があります。光関連事業は神奈川県秦野市の光伸光学工業が製造販売しています(有価証券報告書)。販売は米国・ドイツ・シンガポール・香港などの子会社が担い、FY2026の売上の91.1%が日本以外の顧客向けでした(顧客の所在地ベース、独自計算)。
売上・利益・キャッシュフローの構造
実績・会社予想・会社目標を含みます(薄色・点線は実績以外)
注: FY2022〜FY2026は有価証券報告書の5期推移(千円表示)の百万円未満を切り捨てた実績値で、各期の決算短信の値と一致する。FY2027は2026年8月5日に上方修正された会社予想(修正前は60,000百万円)。FYは3月決算期(例: FY2026=2026年3月期)。
出典: 山一電機株式会社 有価証券報告書 第71期(2026年3月期) 主要な経営指標等の推移 (2026-10-17参照) / 山一電機株式会社 2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 山一電機株式会社 2027年3月期 第1四半期決算説明会資料(2026年8月5日) (2026-10-17参照)
売上高はFY2023に46,985百万円まで増えたあと、FY2024に36,423百万円(前期比−22.5%)へ減りました(実績)。その後、FY2025に45,298百万円(+24.4%)、FY2026に52,698百万円(+16.3%)と増え、過去最高を更新しました。
実績・会社予想・会社目標を含みます(薄色・点線は実績以外)
注: 営業利益率は営業利益÷売上高で算出し、小数第2位を四捨五入した。FY2022〜FY2026は決算短信の売上高営業利益率と一致する。FY2027は2026年8月5日に修正された会社予想(売上高65,800百万円、営業利益15,000百万円)から算出した独自計算値。
出典: 山一電機株式会社 2023年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 山一電機株式会社 2024年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 山一電機株式会社 2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 山一電機株式会社 2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照) / 山一電機株式会社 2027年3月期 第1四半期決算説明会資料(2026年8月5日) (2026-10-17参照)
営業利益率は、FY2022が21.2%、FY2023が19.4%で、FY2024に8.1%まで下がりました(実績)。この年の営業利益は2,933百万円で、前期比−67.9%でした。売上高が22.5%減っただけで営業利益が7割近く減ったのは、固定費の比率が高いためと考えられます(推定)。FY2025は18.2%、FY2026は21.9%まで戻りました。FY2026の売上総利益率は40.6%、販管費の売上高比率は18.7%です(独自計算)。研究開発費は1,249百万円で、売上高の2.4%にあたります(実績、独自計算)。
注: セグメント利益は営業利益ベースで、全社の調整額(FY2023: +229百万円、FY2024: +180百万円、FY2025: −74百万円、FY2026: −64百万円)を含まない。千円表示の百万円未満を切り捨て。FY2022のセグメント別の値は本記事では未取得。
出典: 山一電機株式会社 2024年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) セグメント情報等の注記 (2026-10-17参照) / 山一電機株式会社 2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) セグメント情報等の注記 (2026-10-17参照)
セグメントの変化: 利益の柱は、もともとテストソリューション事業でした。この事業の営業利益率は、FY2023が29.3%、FY2024が11.6%、FY2025が28.3%、FY2026が26.5%で、半導体市況とともに大きく動きます(独自計算)。FY2026は、スマートフォン・PC向けのテストソケットが好調だった一方、自動車用ロジック半導体向けのバーンインソケットは顧客の投資先送りで減りました。金や銅などの原材料価格の高騰も利益を押し下げました(決算短信)。
変化が大きいのはコネクタソリューション事業です。営業利益は、FY2025の1,213百万円からFY2026の4,406百万円へ3.6倍に増え、営業利益率は6.4%から17.8%に上がりました(独自計算)。会社は、基幹系の通信機器向けと、AIを含むデータセンター向けが「大幅に増加」したと説明しています。一方、車載機器向けはEVの減速などで低調でした(決算短信)。会社は中期経営計画の総括で「事業ポートフォリオにおける収益性の不均衡は改善傾向にある」と書いています。
受注: FY2026の受注高は58,388百万円(前期比+39.2%)、期末の受注残高は18,679百万円(同+43.8%)でした(有価証券報告書、全セグメント合計)。受注高÷売上高は約1.11倍です(独自計算)。テストソリューション事業の受注残高は12,046百万円(同+54.7%)でした。
注: 会社の説明会資料の億円表示(売上高は億円未満、営業利益は0.1億円未満の端数処理)をそのまま使用。このため4四半期の合計(売上高525億円、営業利益115.4億円)は通期実績(526億円、115.5億円)と端数で一致しない。FY2026 Q1=2025年4〜6月、FY2027 Q1=2026年4〜6月。
出典: 山一電機株式会社 2027年3月期 第1四半期決算説明会資料(2026年8月5日) 3ページ (2026-10-17参照)
直近の四半期: FY2027第1四半期(2026年4〜6月)は、売上高19,893百万円(前年同期比+35.8%)、営業利益5,953百万円(同+55.8%)で、四半期として過去最高でした(実績)。営業利益率は29.9%で、前年同期の26.1%を上回りました(独自計算)。会社資料の億円表示では、FY2026の各四半期の売上高は120億〜146億円、営業利益は22.4億〜38.2億円だったので、第1四半期の198億円・59.5億円は大きく水準を上げています。
- TS事業: 売上高11,293百万円(+35.6%)、営業利益4,645百万円(+52.5%)、営業利益率41.1%(独自計算)。スマートフォン向けのテストソケットの出荷が計画を上回ったほか、メモリー顧客のライン増強に向けたバーンインソケットが好調でした。ロジック向けのバーンインソケットは、自動車向けを中心に低調が続きました(説明会資料)。
- CS事業: 売上高8,236百万円(+39.3%)、営業利益1,564百万円(+103.4%)、営業利益率19.0%(独自計算)。AI関連を含むデータセンター向けの出荷が「計画を大きく上回」ったと会社は説明しています。
円安の効果: 第1四半期の平均為替レートは1ドル159.49円で、前年同期の144.59円より14.90円円安でした。会社は、為替が前年同期比で売上高を18.4億円、営業利益を10.9億円押し上げたと開示しています(説明会資料)。営業利益の増加21.3億円のうち、約半分が為替の効果です(独自計算)。会社が示す感応度は、1ドル1円の変化で年間の売上高3.1億円、営業利益1.9億円です。
会社予想の前提: 修正後の会社予想から逆算すると、次のとおりです(独自計算)。
- 第2四半期(2026年7〜9月): 売上高16,007百万円、営業利益3,347百万円、営業利益率20.9%
- 下期(2026年10月〜2027年3月): 売上高299億円、営業利益57.0億円、営業利益率19.1%(億円表示の会社予想から計算)
FY2026下期の実績は、売上高259億円、営業利益51.4億円(営業利益率19.8%)でした(億円表示から独自計算)。会社予想は、第2四半期以降の為替を1ドル150円と、第1四半期の実績より約9.5円の円高に置いています。第1四半期の営業利益は、通期予想の39.7%にあたります(独自計算)。第2四半期の実績は2026年11月5日に発表される予定です。
実績・シナリオを含みます(薄色・点線は実績以外)。「推計」の注記は開示値そのものではなく当サイトの推計・計算による値です
注: 営業CF・投資CFは有価証券報告書の5期推移(千円表示)の百万円未満を切り捨てた実績値。フリーCFは営業CF+投資CFとして本記事が計算した値(独自計算)。投資CFには定期預金の預入・払戻を含む。
出典: 山一電機株式会社 有価証券報告書 第71期(2026年3月期) 主要な経営指標等の推移 (2026-10-17参照) / 山一電機株式会社 2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) (2026-10-17参照)
キャッシュフロー: 営業CFは5期とも黒字です(実績)。FY2024は利益の減少で3,230百万円に減り、フリーCFは−991百万円でした(独自計算)。それ以外の年のフリーCFは、FY2022が5,354百万円、FY2023が5,988百万円、FY2025が5,348百万円、FY2026が6,584百万円です(独自計算)。FY2026の設備投資は3,384百万円(有形固定資産の受入ベース)、減価償却費は3,274百万円でした(実績)。会社はFY2027に設備投資47.2億円、減価償却費34.9億円を計画しています(会社計画)。
ROIC・資本効率
ROEは、FY2022から順に23.7%、21.1%、5.5%、13.5%、21.1%です(実績、有価証券報告書)。前中期経営計画ではROE10%以上を目標にしていました。2026年5月に公表した新しい中期経営計画では、目標を「ROE18%以上」に引き上げています(会社計画)。
本記事では、本業の資本効率を見るため、次の式で税引後ROICを計算しました(独自計算)。
- ROIC = 営業利益 ×(1 − 30%)÷ 投下資本
- 投下資本 = 純資産 + 有利子負債(借入金・リース債務)− 現金及び預金(期末値)
- 税率30%は簡便な仮定です(FY2026の実際の税負担率は24.4%、独自計算)。
この式によると、ROICはFY2025が17.4%、FY2026が23.2%でした。FY2026の投下資本は34,899百万円(純資産46,706百万円+有利子負債5,983百万円−現金及び預金17,790百万円)です。現金を差し引かない場合(投下資本=純資産+有利子負債)は、FY2025が12.5%、FY2026が15.4%です(独自計算)。
自己資本比率は73.6%で(FY2026末、実績)、現金及び預金が有利子負債を11,807百万円上回ります(独自計算、リース債務を含む)。ROEが高いのは借入による効果ではなく、利益率の高さによるものです。
競争優位と競争環境
確認できる事実
- 顧客: FY2026の主要な販売先はQualcomm Technologies Inc.で、販売額は10,954百万円(売上の20.8%)でした。関連するセグメントはテストソリューション事業です(有価証券報告書)。FY2025も10,962百万円で、売上の24.2%でした(独自計算)。スマートフォン向け半導体の大手に、継続して採用されていることが分かります。
- 地域: FY2026の顧客所在地別の売上高は、アメリカ16,753百万円(31.8%)、シンガポール6,359百万円、中国4,558百万円、日本4,689百万円(8.9%)、ドイツ4,350百万円、その他15,987百万円でした(有価証券報告書、構成比は独自計算)。
- 会社が挙げる強み: 会社は「接触信頼性」「高速伝送技術」「微細・多ピン・高耐久性」「高温・高電力対応」などの要素技術と、精密加工技術を強みに挙げています(中期経営計画)。重点領域として、AI・車載向けの高電力・高温対応バーンインソケット、エッジAI向けの高周波・多ピン対応テストソケット、AIデータセンター向けの次世代高速伝送コネクタを示しています。
推定(本記事の解釈)
- ICソケットは顧客のチップごとに設計し、顧客の検査工程で認定を受けて使われます。一度採用されると、同じ顧客の次の世代のチップでも取引が続きやすい構造だと考えられます。Qualcommへの販売が2期続けて100億円規模であることは、この見方と矛盾しません。ただし、品目ごとのシェアや、採用を競合に奪われた事例は開示されていないため、本記事では「推定」にとどめます。
- 会社は事業等のリスクで、業界の価格競争が「激化しており」「今後一層の価格下落が予想されます」と書いています。顧客がスマートフォン・半導体の大手に集中しているため、価格交渉力は顧客側に偏りやすいと考えられます。
限界・注意点: テストソケット・バーンインソケットの市場シェアは、一次情報では確認できませんでした。国内外に競合メーカーがありますが、本記事では比較に必要なデータを取得できていません。同社の伸びが市場全体の伸びによるものか、シェアの上昇によるものかは区別できません。
成長ドライバーと市場規模
成長ドライバー(会社説明)
- AI・データセンター: サーバーやネットワーク機器の高速化で、高速伝送コネクタの需要が増えています。CS事業の通信・データ通信向けの第1四半期の売上は、2023年度(本記事のFY2024)第1四半期の約6倍の水準でした(説明会資料のグラフ)。会社は、次世代製品の出荷も始まると説明しています。
- メモリー: メモリーメーカーのライン増強で、メモリー向けバーンインソケットの出荷が伸びています。TS事業のメモリー向けの第1四半期の売上は、2023年度第1四半期の約6倍でした(説明会資料のグラフ)。
- モバイル: スマートフォン・PC・ウェアラブル機器の高性能化で、テストソケットの需要が続いています。
- 車載: ADAS・自動運転向けの需要を見込む一方、足元では自動車用ロジック半導体の投資先送りやEVの減速で低調です。
市場規模: 会社はICソケットやコネクタの市場規模を数値で示していません。本記事でも一次情報の数値は確認できませんでした。
中期経営計画(会社計画、2026年5月13日公表): FY2027〜FY2029の3年間の累計で、売上高1,950億円、営業利益420億円(営業利益率21.5%)、当期利益295億円を目標にしています。前の3年間(FY2024〜FY2026)の累計実績は、売上高1,344億円、営業利益227億円でした。年度ごとの計画は次のとおりです。
| 年度 | 売上高(計画) | 営業利益(計画) |
|---|---|---|
| FY2027 | 600億円 | 130億円 |
| FY2028 | 650億円 | 140億円 |
| FY2029 | 700億円 | 150億円 |
2026年8月の修正後のFY2027予想(売上高658億円、営業利益150億円)は、初年度で計画を大きく上回り、最終年度の営業利益の計画に並びました。ただし、前の中期経営計画では、FY2024の計画(売上高420億円、営業利益66億円)に対し実績は364億円・29億円で、大きく届きませんでした(中期経営計画の総括)。半導体市況の変化で、計画と実績が大きくずれる年があることを示しています。
設備投資(会社計画): 3年間で180億円を計画しており、前の3年間の実績133億円を上回ります。フィリピン工場と佐倉工場の生産能力の増強、新製品の開発、新技術への先行投資などにあてる計画です。
経営者・資本政策
代表取締役社長は亀谷淳一氏で、2021年6月に就任しました(有価証券報告書の沿革)。
- 配当: 1株当たり配当は、FY2022が96円、FY2023が104円、FY2024が31円、FY2025が89円、FY2026が148円でした(実績)。配当性向は30%前後で推移しています。FY2027の予想は168円(中間65円、期末103円)で、8月の上方修正にあわせて引き上げられました(会社予想)。新しい中期経営計画では、配当性向30%を基本とし、「累進配当」(普通配当の1株当たりの額を前年以下にしない方針)を導入しました。
- 自社株買い: FY2025に2,523百万円の自己株式を取得しました(キャッシュフロー計算書)。2026年5月29日には、自己株式1,300,000株(消却前の発行済株式の5.95%)を消却し、発行済株式数は20,529,775株になりました(有価証券報告書)。
- キャッシュ・アロケーション(会社計画): FY2027〜FY2029の3年間で生み出す営業CF 350億円を、設備投資180億円、戦略投資(M&Aなど次世代領域への投資)50億円、株主還元120億円に配分する方針です。余った資金がある場合は、自社株買いや特別配当を行うとしています。
- 財務: FY2026末の現金及び預金は17,790百万円、有利子負債(借入金・リース債務)は5,983百万円です(実績)。
将来シナリオ(条件付き)
以下は将来を予測するものではありません。どのような条件のもとで何が起こりうるかを整理したものです。
- 会社予想を上回るシナリオ: AIデータセンター向けの投資とメモリーメーカーのライン増強が続き、為替が会社の前提(1ドル150円)より円安で推移した場合を考えます。この場合、会社予想の下期(営業利益率19.1%、独自計算)は、第1四半期の29.9%と比べて保守的な前提となり、FY2027の営業利益が会社予想の15,000百万円を上回る可能性があります。会社の感応度(1ドル1円で営業利益1.9億円)に基づけば、為替だけでも利益は動きます。
- 会社予想並みのシナリオ: 第2四半期以降、為替が1ドル150円前後になり、需要が会社の想定どおりに推移した場合を考えます。この場合、FY2027は会社予想(売上高65,800百万円、営業利益15,000百万円)前後となります。中期経営計画の最終年度(FY2029)の営業利益150億円を、初年度で達成する形です。その後は、FY2028以降も同じ水準を保てるかが焦点になります。
- 下振れシナリオ: スマートフォンやメモリーの需要が調整局面に入り、顧客が検査設備への投資を先送りした場合を考えます。FY2024には売上高が−22.5%、営業利益が−67.9%となり、営業利益率は8.1%まで下がりました(実績)。ここに円高が重なれば、利益の減り方はさらに大きくなる可能性があります。また、Qualcomm 1社の発注の変化が、売上の約2割に影響します。
現在の市場評価との比較
2026年10月16日の終値8,730円をもとにした指標は次のとおりです(独自計算)。
| 指標 | 値 | 計算の前提 |
|---|---|---|
| 時価総額 | 約161,124百万円 | 自己株式を除く株式数18,456,360株(2026年6月末の発行済株式数20,529,775株から自己株式2,073,415株を差し引いた株数、第1四半期決算短信) |
| PER(会社予想) | 約15.6倍 | FY2027の会社予想EPS 557.89円 |
| PBR | 約3.28倍 | 第1四半期末の1株当たり純資産2,658.17円 |
| EV/営業利益(会社予想) | 約10.0倍 | 時価総額からFY2026末の実質手元資金11,807百万円を差し引いたEV÷営業利益予想15,000百万円 |
| 配当利回り(会社予想) | 約1.92% | 年間配当168円 |
参考として、各期末時点のPER(実績EPSベース、有価証券報告書)は、FY2022から順に5.9倍、5.7倍、24.8倍、8.0倍、15.0倍でした。FY2024の24.8倍は、利益が一時的に落ち込んだためです。会社によると、PBRはFY2024末が1.34倍、FY2025末が1.02倍、FY2026末が2.93倍でした(中期経営計画)。この2年で、市場の評価の前提は大きく変わっています。
株価は2026年6月23日に年初来高値11,420円をつけ、現在はその約76%の水準です。10月15日の終値は8,710円で、前日(10月14日)の終値10,080円から13.59%下がりました(2026年10月17日にYahoo!ファイナンスで確認した終値から独自計算。同ページの表示は日々更新されるため、後日は同じ値を確認できない場合があります)。下落の理由は、会社開示では確認できませんでした。
市場がどのような前提を置いているかは推定になります。FY2022〜FY2023の6倍前後のPERは、半導体市況の循環で利益が大きく振れることを強く割り引いた水準と考えられます。現在の15倍台は、AIデータセンター向けのコネクタという、テスト以外の成長源が加わったことを一部取り込んでいる可能性があります。一方で、第1四半期の利益の約半分が円安の効果だったことを考えると、会社予想EPSそのものが為替の前提に左右されます。本記事では、どちらの要因がどの程度株価に効いているかは検証できていません。
主要リスクと反証条件
| リスク | 内容(事実・会社開示) | 反証条件(この分析の見立てが崩れる目安) |
|---|---|---|
| 半導体市況の循環 | FY2024は売上高−22.5%、営業利益−67.9%(実績)。会社もTS事業の需要が半導体需給に大きく影響されると開示 | 四半期の営業利益率が2四半期連続で15%を下回る |
| 顧客の集中 | Qualcomm Technologiesへの販売が売上の20.8%(FY2026) | Qualcomm向けの売上が前期比で20%以上減る |
| 為替 | 売上の91.1%が海外顧客向け。第1四半期の営業利益の増加の約半分が円安の効果 | 1ドル140円台前半の円高が続き、会社予想が下方修正される |
| 生産拠点の集中 | TS・CS事業の製品の多くをフィリピンで生産(有価証券報告書) | フィリピン工場の操業停止や、出荷遅れによる損失が開示される |
| 原材料価格 | 金・銅などの価格高騰がFY2026の利益を押し下げた(決算短信) | 売上総利益率が前年同期比で2四半期連続で3ポイント以上下がる |
| 価格競争 | 業界の価格競争は激化しており、一層の価格下落が予想されると会社が開示 | 主要製品で競合への置き換えが判明する |
| 車載の低迷 | 自動車用ロジック向けバーンインソケットと車載コネクタが低調 | 車載向けの低迷が長引き、CS事業の利益率が10%を下回る |
| 中期経営計画の実行 | 3年で設備投資180億円、戦略投資50億円 | M&Aなどの戦略投資で減損が発生する、またはROEが18%を2期連続で下回る |
出典
- 山一電機株式会社 2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)(2026年8月5日、IR BANK掲載のPDF)(2026-10-17参照)
- 山一電機株式会社 2027年3月期 第1四半期決算説明会資料(2026年8月5日)(2026-10-17参照)
- 山一電機株式会社 2026~2028年度 中期経営計画(2026年5月13日)(2026-10-17参照)
- 山一電機株式会社 有価証券報告書 第71期(2026年3月期)(2026-10-17参照)
- 山一電機株式会社 2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)(2026-10-17参照)
- 山一電機株式会社 2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)(2026-10-17参照)
- 山一電機株式会社 2024年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)(2026-10-17参照)
- 山一電機株式会社 2023年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)(2026-10-17参照)
- 山一電機株式会社 投資家情報(2026-10-17参照)
- Yahoo!ファイナンス 山一電機(株)【6941】株価・株式情報(2026年10月16日時点)(2026-10-17参照)